■ 50話/鷲掴みでござる。
その後、直ぐに血に濡れた山小屋を去った。花子殿は拙者にありがとうと言っていつも通りに振舞う。きっと無理をして居られるのだろう、拙者は痛々しく見ていられなかった。
「花子殿、無理は…」
手を差し伸べれば振り返る笑顔に動きが止まる。違うんですと首を振る彼女はどの事を違うと否定しているのか。
「今までの私は弱かったのです。私は剣士。剣士とは人を斬る事だと思ってた、血を見るたび興奮してきて血を更に求めてしまう。だけど違いますね。一族のせいにしては駄目、斬らなくても私は私なのだから」
そうですよね白兵さんという花子殿に勿論でござると返せば、"長くなりました。さぁ行きましょう"と手を引かれた。引かれる手はじんわり暖かく安心する。真に芯が強いお方だ。
「花子殿」
「殺した人の思いを背負い生きていくのは大変ですね、私は今まで剣士として生きてきましたし今更辞めてどう生きればよいか分かりませんから…頑張るつもりです」
その凛とした背中にまたしてもときめいてしまったでござる。
「だから白兵さんは私の先輩なのです」
そうハキハキ告げられてもさて拙者は過去幾人殺したかも覚えていない、かつての雇い人をも裏切っている。汗が垂れたがそう嬉しそうに道を歩く花子殿にそれを話す訳にもいかず胸の内にしまった。
「付けられているでござる」
「え?誰に…」
地を蹴り拙者達よりも後ろへ立つその付けていた者の後ろに回り刀を詰めた。
「貴様は何処の遣いだ」
(遂に来たか、花子殿の頬の怨みまだ忘れてはおらぬぞ)
(奇策士…ああ、とがめさんとこの!)
[
prev /
next ]