■ 49話/錆の後悔。
山小屋付近で山賊を見た。拙者は後を付ける、花子殿には蒔を拾いに行ってくると伝えてある。思ったとおり、明かりが灯っている山小屋へ向かっている。
直ぐに対処すべきなのだろうがこの程度の人数ならば花子殿ならばなんら問題ないだろう。
下品な笑い声が聞こえてくる。
ああ、花子殿をそのような汚らしい者共の瞳に入れる事すら癇に障る。今にも飛び出てその下賎な輩を切り刻みたいのだがここは我慢せねば。
「な、なんですか、出て行ってください」
可愛らしい声だ。男たちは花子殿が刀を抜いても余裕な笑みを浮かべていた。お嬢ちゃん可愛いねぇ、こんな所に一人でいるからこんな事になっちゃうんだよ、誰からスるなどと口々にする。おっと、音を出しては気づかれてしまう。つい木の幹を握り潰してしまったでござる。
「死にたいんですか」
おー怖い怖い、て事はおじさん達もこれ使っちゃうよーとゲヘゲヘ刀を抜きピトリと花子殿の白い頬に付けられ花子殿はどうするのか。いかんまた木を切り倒しそうになってしまった。
「ぐわああ!!」
一人倒れた、その血を浴びた刀を見て微笑む彼女はいつもとは様子が違う。初見した時には拙者が止めてしまった為に見る事が出来なかった狂気に満ちたその表情に背筋がざわめいた。
「馬鹿ですよね、悪い事を何度も繰り返しても悪いと思わない。むしろ味をしめて」
だからこんなに血を流す羽目になるんですよと刀を次々に濡らす。腰を抜かし外へと悲鳴をあげて這い出て来た山賊の後にゆらりと花子殿が出てくる。
その時、拙者の方が馬鹿であったと真に後悔した。今、何故花子殿は泣いているのかか、何故そんなにも酷く悲しそうに眉を潜めるのか。
拙者は何故このような事をしてしまったのか、彼女はまだ十六だ。幼い頃から家独自の流派の剣を習ってきたとは故、一人娘への愛情を一心に注がれ育ち、人の死とは程遠い環境で育った筈。父親が亡くなりようやく外の世界へ出てきたばかりの女子ではないか。
ツラいに決まっているだろうがっ…
「すまなかった、花子殿…」
抱き締めた震える背中はとても小さくて、やはり剣を振るっていたとて女子の身体なのだと改めて思った。
「わ、私…違います。殺せます、簡単です」
だって、敵の血を扱う流派なんですよ、そんな事死んだ一族に知られたら笑い者ですと慌てて涙を拭う彼女に拙者は軽い気持ちで言葉を発することが出来なかった。
拙者が今できるのは、ただそばに居てさしあげる事のみ。
「花子殿は花子殿でござる、誰にも花子殿の道は指図出来ない、故に花子殿のしたい事をすれば良いのでござるよ」
(ごめんなさい、父上ごめんなさい。私、もう血は見たくありません)
(涙がでるの、景色が赤くて涙で揺らぐ。止まらない。床、汚してしまいました。)
[
prev /
next ]