■ 48話/恋煩いという病気。
「白兵さーん!白兵さん、見て下さいっそこに猪が歩いていたので捕まえました!」
ぷぎーなんて可愛い声では絶対鳴かないであろうその風貌の猪の足に縄をくくり引きずりながら走ってくるなんとも可愛らしい花子殿。
拙者は聞かなかった。
"貴方は本当に拙者の刀の毒を吸ったのでござるか?"
真庭鳳凰を全く信じていない、訳では無いがこの目で確かめるまで納得しない主義なだけでござる。
周坊まではあと少しある。
山で野宿は流石にさせられない為、見つけた山小屋を一晩借りる事にしたのだが気が休まらぬ。
腰を下ろし膝を立てそこに肘を置き親指で顎を弄る。そわそわ、そわそわ落ち着かない。
「久しぶりだから上手くさばけるでしょうか」
内蔵を引きずり出す彼女は血が着物へ飛ばないように鍋の蓋を盾にしているようで楽しそうに久々の解体作業に勤しんでいるようだ。恋愛要素なんぞのカケラも感じられぬその風景、さばくのに一生懸命な彼女になんて話し掛けようか動作一つ一つに心を動かされている拙者は実に情けない、が心地よくもあった。
「猪鍋ですねっ、白兵さーん見て見て、猪侍でござる」
う、口を抑える。
剥いだ皮を頭から被り頭が猪の人間をしているらしい。拙者は悶えた。口を抑えたのは花子殿を困らせぬ為だ、年の割に大人びてはいるがそういう突拍子もない事をする頭が少し弱い所も何もかもが愛おしい。そんな事を真っ直ぐに彼女へ言えばきっと困った表情になる事は分かっているのだ。
「白兵さん?」
そう猪の顔で首を傾げる彼女
(な、なんていじらしい子でござろう…)
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