■ 46話/真実と真実。




勢いよく入ってきた白兵さんは私の握られた手を見てワナワナと震えだし、やはり…と呟いた。

「離せ…まずその手を離せ。早く帰って来て良かった、花子殿」

そう名前を呼ばれたが、赤くなった顔を見せたくないと俯いているとふいに覗き込まれる。
それを見た錆は息を呑み、鳳凰は微笑み腰を上げた。

「貴様…」

「さて錆よ、お前に話がある。少し外で話をしよう」

スタスタと歩く鳳凰は扉に差し掛かると後ろを向き花子の名前を呼んだ。
私が顔を上げれば彼は満足そうな微笑みで手を上げた。

「では、失礼する。花子…己の身体を一番に考えるのだぞ」

「な…名前!」

初めて呼ばれたその呼び方に否定しそうになる言葉を何故か喉に押し込んだ。私、許した覚えありません!って言おうとしたのに。そう言うとヒラヒラと直ぐに手を振られ、眉間に皺を寄せて寂しそうにこっちを見つめる白兵さんと共に外へ歩いて行った。










「花子も居らぬしなお互い本音で語ろうではないか、なあ錆殿?」

「……錆で良い」


不機嫌そうな顔をあからさまに出す錆とは違い、機嫌が良いのであろう余裕の表情をする鳳凰に錆は苛々…と言うよりも腹が立っていた。

先に花子の顔を覗き込んで見てしまった顔の所為もあるだろう。
錆は気づいてしまったのだ、その顔の意味する事に。

「拙者は諦めるつもりはない」

「そんな事、言われなくても分かっている。ここに呼び出したのは他でもない花子の事だが…不本意ながら頼みがある」

「?」

「我は今の任務で忙しくあやつの隣に居てやる事が出来ぬ故にお主に花子を守って欲しいのだ」

嫌な予感がしてならないと言う鳳凰に錆は首を傾げた。しかし、そんな事を言われる筋合いはないと直ぐに背を向ける。

「拙者はお前に言われずとも花子殿を護るつもりであった−−っ!?」


がきん!!

その時、投げられた苦無を錆は刀で弾いた。錆の腕ではこの位の事は対した事は無かったが今の話で何故こうなるんだと錆は内心驚いていた。地面に落ちた苦無を拾う主を睨む。

「うむ、毒気を抜かれたとて腕は確かのようだな」

これくらいはしてくれないと頼んだ意味がないと微笑まれる。その視線を睨み返せば、一転錆を射抜くような冷たい視線を向けられまたも錆は静かに息を呑んだ。一人の女にうつつを抜かしているとて真庭の一頭領で加えて里の長と言うだけあって只者ではないようだ。

「毒…だ、と?」

「毒を吸う体質、これが花子の家系の秘密だ。あの家系は刀で斬りつけ毒を持った血によって強さを増す。錆よ、お主は怪訝に思わなかったか?その強さに、性格の変わりように。」

確かにそんな事はあったが別に不思議に思った事は無かった。それが花子殿だと思っていたから、そしてその花子殿自身に惚れたのだからとその言葉を胸の内に秘めていると"そして"と更に思わぬ事実を告げられる。

「その毒は四季崎の刀にも少なからず含まれていた。そしてそれは家系の求める毒とは違う副作用のある毒だ。最初は絶刀、次に斬刀、そしてお主の薄刀の毒を吸った。それは我の推察だが剣士が剣士らしく刀に魅了されている程に刀の毒は増えているのでは、とな」

魅了、その言葉が胸の何処かに引っかかった。拙者はこの刀に深く執着していた。この刀なしでは歩んでいけぬ程に。
しかし、今ではどうだ?前程に刀の事を考えてはいない、それ以上に刀を部屋に置いたままで出歩く事もしばしばだ。

そうか、あのように苦しみ倒れたのは…拙者の刀の毒を…。

「そうでござったか……教えてくれた事、礼を言うでござる」

「錆、お主に頼み事が無ければ此処で容赦なく殺していた。くくく、花子に触れたであろうその腕を、言葉を交わした喉を、熱を持った瞳で見たであろう眼を、全てを切り刻んでやりたいくらいだ」


しかし、錆も冷静に鳳凰を見返す。

「拙者もお主の存在自体を花子殿の中から消し去りたい」





「……………」
「花子殿は拙者が命に変えても護る」
「…ああ頼む、では失礼する」



ぽつり、雨粒が二人の肌に落ちる。
そして互いに背を向け反対に歩き出す、雨脚が強くなってきた事などお構いなしだ。

鳳凰は曇る天を見上げ、錆はまだ乾いた土に落ち雨粒が染みていくのを俯いて見ていた。


(しばしの別れ、か…)

(貴様に言われずとも…)




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