■ 45話/この鼓動の意味は。
ざまぁみろです。
なんだか私も長い旅の中で社会に揉まれて成長した気がする。頬を片方赤くした鳳凰さんは叩かれたのに機嫌よく座布団に腰を下ろしているのは何故だろう。
「我が前に花子殿にした事をまだ想っていたとはなあ」
によによと笑いながらなんだか勘違いしているし。
どうだ、もう一度するか?とにやりと笑っているが丁重にお断りする。なんだ残念、遠慮せずともよいものをと言うがそうじゃない。この熱くなる頬はどうしたら冷めるのか、そっちの方が重要ですよ。
「任務の合間にお主を探していたのだ、何処かで無茶をしていると確信していたからな」
まったく、もう無茶をしてくれるなよと頭を撫ぜられればまた頬が。
「錆の薄刀だな」
「……」
コクリと頷けば大きく溜め息が吐かれる。心配して来てくれたのだろうか、そんな自分に都合の良い事を考えている。別にこの人は仕事の暇な時に遊びにいらしているだけで私の事なんていじりの対象にしか思ってないんだろう。
この通り、私はすぐに表情に出てしまうし。
「それで」
え?と顔を上げれば聞いていなかったのか?と笑われた。大丈夫かと聞いたんだと強く言われ素早く頷く。
「もしかして、心配…してくれていたのですか」
そう聞けばもしかしなくともだ!とまた強く言われ肩がビクリとしてしまった。少しイライラしながらぶつぶつと錆の為にまったく何にも分かっておらぬなどと言っている。心の声が出ているのだろうが忍者がそんなんで大丈夫なのか。
「薄刀の毒は強かったのだろう、前に会った時よりも幾らか痩せたな」
腕に手を伸ばされ触れられる。どうやら掴んだだけで何もしないようだ、白いなと喉で笑われ感触と太さを確認するかのように触れるこの人は無自覚なのだろうか、いやそれとも私がこんなに心臓をドキドキさせている事を知っていてやっているのでしょうか。
「どうした、花子殿」
かか確信犯でしたねと睨むがこの人に通用しそうにない。そうだ、こういう人でした。
「そろそろ錆が痺れを切らして帰って来る頃かな」
その前にひとつと真剣な眼差し。
「先に言っておくが錆にお主を渡すつもりは毛頭ない。我はまた真庭の頭領として動かねばならない故にここを直ぐに離れればならぬ、錆には…お主の同行を頼むがこれは我にとって苦渋の選択だと、花子殿には知っていて欲しい」
そうだ、と手を握られれば耳に直接鼓動の音が聴こえて来る。心臓の限界鼓動回数を越えてしまっているんじゃないかと思うくらい煩く苦しい。
「貴方を唯一好いている」
いや、愛している。愛しい、どの言葉が相応しいのだろうな、初めての事だから分からぬと苦笑しながら言う。
ああ、ドタドタと白兵さんが帰って来る足音が聴こえるけれど顔が熱くて倒れそう。
こんな気持ちになるなんて
私も…
私もこの人が好きなのかもしれない。
[
prev /
next ]