■ 42話/鋭きその刀。
「ふ、二人で泊まろうと白兵さんでしたら変な事にはならないだろうし別に大丈夫です、信じていますから!」
そう強く言えば、こくりと頷かれ少し目を伏せながら少し距離をとり座る白兵さんにそうです、先程の続きをと佇まいを直す。
「その刀を…」
白兵さんは黙って腰から外し、がちゃりと音を立てて目の前に置く。
触るにも刺々しいと言った方が良いのでしょうか…鋭い気配が絶えないそれに息を呑む。
これを、触ったら…
「そうだ、一つ忘れていました。その刀の特性を教えて頂けませんか?とても綺麗な刀ですね…」
白兵さんにが再度持てばその刀は更に気が高まり、刀の特性を話す白兵さんの目が研ぎ澄まされた刀の刃のように光っている気がする。
「この刀は薄刀、針と言ってとても薄くそしてとても軽い。」
スルリと刀を抜き刀身を見せてくれるが、私は息を呑んだ。こんな刀…見た事がない。向こう側が透けて見え、刀身自体も目を凝らさないと見えない程に薄い。
「故に美しい、拙者はこの刀に心底惚れているのでござるよ」
この刀はその四季崎記紀の十二本の刀の中で最も扱いにくく壊れやすいとされている。刀筋をずらさずに完全な軌跡を描いて斬りつけなければ攻撃すら出来ない。そして極めつけには当たった時に相手が筋をずらしても壊れてしまうのだ…故に使い手にはこれを壊さずに扱う高い技術が求められる…
「そう…故にこの刀は拙者にしか扱えない。この刀の良さを最大限に活かせるのは拙者だけ……」
「白兵さん?」
泥酔し切っているその瞳は何かに取り憑かれているようで、惚れているとは何だか違った感覚、私はぞくりと背筋が凍った。
名前を呼べばハッと我に返った白兵さんがいつもの瞳に戻り私を見た。
「何でござるか」
今回は…何だか蝙蝠さんや銀閣さんのようにはいかなそうですね…。
「私は此れを触って何が起きようとも大丈夫です、心配無用…それだけ先に」
にこりと微笑んで刀に手を伸ばす。
それはどういう…と言う白兵さんの言葉の続きを聞かず白兵さんが刀身を閉まったその刀の鞘に触れた。
きっと貴方は優しいから私がその刀の毒を吸うなんて非現実的な事を信じたとしても、危ないと言って私をこの刀に触れさせてくれないでしょう?
かちゃり
軽い?嘘だ、そんな訳がない。私が鞘をもった瞬間にズシリと質量が腕にのしかかり、指がもっていかれそうになる。そして、流れ込む冷たい氣が心臓を止めようと流れ込んでくる。
「花子殿?」
身体がガクガクと震える。駄目だ膝で支えていたけれど膝で立ってもいられない…私は白兵さんの上に倒れ込んだ。
直ぐには終わらないみたいでまだまだその冷たく刀身のように鋭い刃が身体を切り裂くような痛みが襲った。
「っ、ぅああああ!…ぃ"…っあ"あ!!」
花子殿っ、花子殿っ!と私の名前を呼び、ぎゅうっと肩を抱く白兵さんが薄ら視界の中に見える。
心配…無用と言ったのに…
花子殿と何回も呼び泣きそうな顔で私を覗き込み頬に手を置く白兵さんに私は言ってあげられなくて、ただ痛みを我慢するしかなかった。
唇を噛んで声を我慢しようとしていたけれど、それも長くは続かず血が滲んで鉄の味が口に広がる。
痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたい…
身体が裂けそう
私は必死に目を瞑りその痛みを堪える。
長い事その痛み耐えた私は酸欠状態で息を上手く吸えずに…意識が……途絶えた。
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