■ 37話/ふぁいと、一発!
ひゅるるる、風が互いの髪をなびかせとがめが威勢良く始まりの掛け声をする。
さて、どう戦いましょうか。
刀を折られるのは嫌ですし、かと言って刀を隠しながら戦うなんて出来っこありません。刀対素手なんて前代未聞だもの。
「あんたの実力は如何ほどかな」
「さぁ?どうでしょうね、しかし私も先を急ぐ身の為、早く終わらせて頂きたいと思います」
「ああ、ただしその頃にはあんたは八つ裂きになっているだろうがな」
「え?」
「こらー!七花貴様ぁぁ、花子を殺したらお主も殺してやるからなぁぁぁ!!」
「あいつが作った決めゼリフってやつ」
「へぇ、格好良いですね」
「物好きな奴だなぁ、変なの」
はてさて、開始合図が始まってものの三十秒。虚刀流が此方に向って勢いよく走ってくる、とても早い、早過ぎて怖過ぎて、一打目を刀で受け止める事なくすれすれで避けてしまった。
「−−避けた!?」
「だって勢いが怖いんですっ」
うわ、目が本気になった、避けなければ良かったかしら。避けるだけで精一杯の攻撃。この刀で受け止めるのは嫌な勘が働いてしまう。耳元で聴こえる風を切る音が少し尋常ではない。
「避けてちゃあ…っ何も始まらないだろうがっ」
「それはっ…そうですが」
しかし、こう隙が無い相手も初めてですね。もう疲れてやや足がもつれて来ましたよ。
「あっ…」
「うわっ!ちょっ…あんた」
私は見事に左に避けようと足に力をいれた瞬間に体制を崩してしまった。虚刀流の右手が顔に伸びる。ああ、人が死ぬ時に走馬灯が見えるとは良く言うけれど、これがそうなのですね、私はこの短い時間の中で今までの思い出の映像がひらひら頭の中に枯葉の様に映り込む。
「止まれ七花ぁぁあ!」
その瞬間、左頬に当たる拳の衝撃を受け止めながら頭の中が真っ白になる。
やはり、だから言ったじゃないですか、弱いって。
「花子!!」
意識が朦朧とする中、とがめさんの涙声がきこえてくる。良かった、私まだ死んでないんですね…
その時ぷつんと私の意識が途絶えた。
〆
「………」
ここは…目を開けると上には目を瞑って俯いたとがめさんと綺麗な白い髪。
寝ているのかしら。
私は起き上がり辺りを見回した。膝で寝かしてくれていたのですか、とがめさん…
「あれ、あんた起きたのか」
「虚刀流…いたたたた……」
喋ると口の中に広がる血特有の鉄の味、それにジンジンと痛む左の頬。
触れば少し、いや尋常ではないくらい腫れている。
「ごめん、あんたが…その、そんなに弱いと思わなくてよぉ」
「最初に言ったじゃないですか、私は弱いって…しかし、謝る必要はありません。命を取らないでいてくれただけでも感謝をしなければいけないのは、私の方なのですから」
「いやっ…でも」
「花子!起きたのかっ、大丈夫か!嫁入り前の綺麗な顔が台無しではないかぁぁぁ」
うおおおおんと泣くとがめさんの背中を落ち着かせるようにさする。
「とがめさんが虚刀流を躾けてくれているおかげで、これくらいで済みました。あのままでしたら頬に風穴が空いているはずでしたので」
言葉を詰まらせる七花。きっと本音を付かれて吃驚したのだろう。とがめがすまぬぅ、すまぬぅと謝る中、私は背中をさすり続けた。
「それにしてもその顔、笑えるな」
「七花ぁぁぁぁああ!!」
「まぁまぁ、とがめさん」
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