■ 30話/斬刀、鈍 後編。




「フッフッフッフッフ」


「鈍.刀斬 刀いしろ恐、るれわ言といなは物いなきで断両刀一」
(一刀両断できない物はないと言われる、恐ろしい刀、斬刀.鈍)

「よれくれそ」
(それくれよ)

「かえねやじうまちっなくし寂、よえねやじんすトカシ」
(シカトすんじゃねえよ、寂しくなっちまうじゃねえか)

「いよいよ、かのいた見を法忍、の俺になんそ、タンアもとれそ。ぜだんえねやじんもるれ見になんそ」
(そんなに見れるもんじゃねえんだぜ、それともアンタ、そんなに俺の忍法を見たいのか、よいよい)

私は銀閣さんの着物の裾を掴む、真庭の忍者ならば殺しては駄目だと、私は思ったのだ。必死に首を横に降る。
銀閣さんはそれを見て頭を撫で立ち上がる。

「おいそれ上手く行くとは思わねぇが、お前がそこまで言うなら加減してみるか」

意識が途絶える事は無かった。
多分、前の絶刀の際に耐性が付いたのではないだろうか。そんなに都合が良いことがあるだなんてと思ったがこの際は感謝するに越した事はない。

「かてっえていく良好格はで前の女、えねだ裕余?減加手」
(手加減?余裕だねぇ、女の前では格好良くいてぇってか)

「くっく、そうだな。俺も一人の男だったってだけさ」


銀閣さんは斬刀を構えた。真庭の忍の方はまだまだ喋り続ける、私は言葉が理解出来なかったが銀閣さんは受け答えしていて理解しているようだった。


「し深鱗逆 法忍鷺白庭真、えねたっいま」
(まいったねえ、真庭白鷺忍法、逆鱗探し)

言い切った瞬間、白鷺は腹を抑えその場に崩れ落ちた。血は…出ていないようだ。

「ふう…」

カチャリ、音を立て閉まった刀身を私は見る事が出来なかった。意識が朦朧としているからではない。刀身が終えなかった。
居合抜き、ここまでの早さを持った剣士などこの人を置いているのだろうか。

「大丈夫か?」

私を抱え起こし、顔を覗き込まれる。

「凄い居合抜きでした、居合抜きって加減出来るものなんですか?」

息をゼーハーさせながらもパチパチと拍手を送る。

「そんな事言ってられんなら大丈夫だな」

「…大丈夫ではないです、息苦しい」

本当か?と喉で笑われたが背中を摩ってくれる当たりとても甲斐甲斐しいのだ。

俺も殺さなかったのはお前を含め二人めだよと額を小突かれる。

そんで?と倒れる真庭の忍者を指差した。


「どうするつもりだ?」

「…………考えがあります」

「今、思いついたんだろ、お前」

「バレました?」



真庭の忍者が起きるまで少し横にならせて貰う事にした。

しかし、これはどうなのだろう。

「寝れません」

「あ?黙って寝ろ、目瞑れば寝れる」

膝の上に寝かせられる私はこの簀巻き状態の忍者が起きたらどんな顔をすれば良いのだ。

「もうっ」

「いーだろ、減るもんじゃねえ」



『いや、減るな。大いに問題ありだ。』


ここここの声は…

銀閣さんが刀を構える。

「もう浮気か、花子殿。我は悲しい、悲しくてこの男の首を落としてしまう所であった」

この人、仕事ではなかったのですか?
戦闘態勢に入る銀閣さんは今直ぐにでも零閃を繰り出しそうだ。

「私の知り合いです」

「ふざけた野郎だ」

「ふざけた?それは我の嫁に手を出すお主だろうが」

「あの…お断りしましたが…」

うわわわわわ、今にも一戦おっぱじめそうですよ。私は動けないし、どうしましょう。

「また、その力を使ったな」

心配して後をつけてきて良かった、と笑う。眉がピクピクしているが。

「副作用があると知っているのに…馬鹿な奴だな」

「そんなにツラくはありません、あの…あそこの簀巻きの忍の方は?」

「ああ、真庭白鷺。我と同じ真庭十二頭領が一人だ」

ゴロンと倒れている白鷺を鳳凰は蹴り起こしている。あっ、ああ、痛そう。

「ぎ、ぎ、銀閣ぅぅぅぅ」

「何をこんな奴に負けて、更には寝ぼけておるのだ」


また蹴った。酷い、酷いわ。

「帰るぞ、白鷺」

白鷺を解き、動けない体を方に担ぎ此方をギロリと睨む。

「くっくっく、何だ嫉妬か?」

「…花子殿、我はすぐに仕事に戻らねばならぬが…次に会ったら仕置きだ」

「え、でも、付き合っていな…」

「問答無用だ」

そう言うと最後に銀閣さんに私に何かしたら主を殺すと残し真庭白鷺と共に去って行った。

「あれが例の求婚者だよな」

「ええ、言った通りの方でしょう?」

頭をボリボリ掻き、大きな溜め息をついた。

「参ったねえ」

「本当に参りました」

そう私が言うと、いやそうじゃねえと言った銀閣さんに私は小首を傾げる。

「いや、何でもねえ。しつこそうじゃねえかと思ってな」

よくお分かりで、ふふふと笑うと銀閣さんはお前に聞いて欲しい話があると言う。
私はまだ起き上がる事が出来ず銀閣さんの膝の上、銀閣の顔を見上げる形で話を聞いた。

「俺はこの刀を守る為だけに命を掛けてきた。この砂漠に囲まれた下酷城に一人で残っているのもこの城と、先々代から受け継がれてきたこの刀を守る為だ。剣士のお前なら分かるだろうが―――剣士には守るものが必要だ。そうでなければ、戦えなくなる。」

そう言った銀閣さんは辛そうで眉を潜めていた。あまり見るなと手で目を塞がれてしまったが、最初に会った時から思っていた。この人は運命に縛られ過ぎている。

「銀閣さ…」

「しかしだ、お前がこの刀に触れてから余りこの刀にそこまでの魅力を感じなくなっちまった。大事な大事な先祖代々のこの刀をだぜ」

ははは、と乾笑をする銀閣さんは笑っているのだろうか、泣いているのだろうか、目を塞がれている私には分からなかった。

「ここからは誰にも話した事がねえ、格好わりぃからな…聞いてくれるか?」

私はこくこくと頷く。



「俺も一人でなかったら、ここを出て行けたのかもしれない」

しんと静まり返ったこの部屋に響いたこの言葉が胸がじんとした。

銀閣さんは続けてそう思った事もあったんだよ、情けない話だがなと私に告げた。

そう、思ってくれていたなら…良かった。

私はもうこのままこの城を刀を守り続けるために生きてしまうのではと思っていたから、私は目から溢れる涙を拭く事はしなかった、逆にバレてしまうからこの掌で隠されている内は何もしない。

「……!お前、いや…いい、そうだな丁度いいから一緒に寝るか、このまま目を塞いでたら寝れんだろ」

私はまたコクリと頷いた。








「寝たか?……」


「……お前を守らせてくれ、なんて言ったら何て言うんだろうな。この城から、俺は「私は…」」

目を塞いでいた手を掴み退かす。

「とても弱いです、毒を抜くという特殊能力なんて付属ですし。私に害のある人間の血でしか強くなれない、それに私は戦うのは嫌いです」

起きていたのかと目をまん丸くしていた銀閣さんは、ふつー剣士がそんな事言うか?と苦笑いしている。

「だから、守って下さい。貴方が本当に大切だと想う人に出会うまで」

お願いしますと包んだ手にポタリと落ちた雫、私はその正体を見ずに目を瞑った。

「狸寝入りして更に眠くなりました。おやすみなさい…銀閣さん」




______________



「……………」

「じゃあ、私行きますね。一緒に行かなくて良いんですか?……銀閣さん?」

あー、と言いにくそうに頭を掻く銀閣さんに小首を傾げる。

「俺の只の維持だが、次にもしこの刀を欲しがる奴が来てこの斬刀に相応しい奴だったら譲ろうと思う」


そしたら、この城を出てお前を追いかけて行く。


「……ありがとうな、花子」






(comment*☆.)


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