■ 21話/一足遅く、参上。
「楽しい、楽しいですね」
楽しいでしょう?と振りかざし刃先が掠めた鳳凰の腕、足から血が滴る。徐々に追い詰められる自身に鳳凰は驚いていた。驚いていたのはそれだけではない、目の前にいる娘はその血に喜び笑うが逆に赤い瞳を潤ませ、ぽたりぽたりと地面に涙を落としている事にだ。
「何故、涙を流す」
首を傾げるその姿はやはり気づいていないのだろう。二重人格、と言っても良いほどの変わりようだ。
「何を言ってるんですか?…さぁ早く、頂戴」
その娘の腕から流れる血は止まる事なく地面に落ちている。このままでは、と思い娘との距離を一気に詰め両腕を取った。
これで動けまい。
離せと筋肉もほとんどついていない細い腕を振り払おうとするがピクリとも動かない。涙を流す少女に我は顔を近づけた。
「合格で良い、お友達とやらの身の内は保障しよう」
その瞬間、唇を塞ぎ舌を絡めた、初心なものだな何も知らぬのか。
「!?…っ…息がっ…」
手をばたつかせる姿についつい意地悪をしたくなってしまったが、それも長くは続かない。わざわざ気絶させなくても寝てくれたか。身体も弱っているのだから、まぁ当たり前か…さて、止血をせねばな。
我は懐から出した布を適当に裂き娘の傷口に縛り、これから如何したものかと考えを巡らせた。
すーすー眠る一回り近く幼い彼女を見下ろし笑う。
「年甲斐もなく花子、お主が欲しくなってしまった」
よいしょと彼女を抱きかかえ、走り去ろうとすると背後から人の気配がする。誰だ?面白そうなので待っていると、そこに現れたのは全身白い女のような容姿をした侍であった。
ほう…あれが…
「お主、錆白兵か。お初にお目にかかる、我は真庭十二頭領が一人、真庭鳳凰だ」
娘を背負ったまま自己紹介する我になんの冗談だと彼には珍しいであろう剣幕を見せた。
「彼女を離すでござる」
こんなところで如何した?と分かっていたが、からかいついでに聞いておこうと喉を鳴らしながら聞いた。
「彼女を離せ、それ以外は話す価値もない」
「それは無理な相談だ」
彼女の身を案じ走ってきたのであろう額に汗を浮かべるその姿が何故かとても腹立だしく、錆が刀を抜く前に地面を蹴り上げその場を後にした。後ろの方で何やら声が聞こえたが知った事ではない。
剣士が忍の足に敵う訳もなく気配が段々と離れていった。
[
prev /
next ]