■ 19話/儚い想いは気づく事なく。
「ここ等辺で良いだろうか」
ストンと広い平地に降ろされる。少し残念など思ってしまうあたり、私は何処かおかしくなってしまったのだろうか。
「そうだな、お主が本気になれるように何か一つ…」
そうだ、お主に拍子抜けした場合、と思いついた言葉を冷ややかに微笑みながら私に告げた。
「お主の大切な者を殺そう」
冗談とも本気とも取れるその言葉に万人なら背筋を凍らせるのであろうが、私には大切な者という言葉に引っかかる者がいなかった。
一般的には身内という事になるであろう父上母上はとっくに他界している。
「いません」
そう告げると微笑んでいた口元が普段どうりに戻り、首を傾けた。いないのか、と。
「そんなに珍しい事でも無いでしょう、父も母も他界しました」
そうかと一言。
「両親が死に一人で刀を片手に旅に出るなどという怖いもの知らずの娘はこの時代、実に珍しいとも思うのだが」
やはり、そうなのであろうか。周りを見て育ってきてない為か何が普通なのか理解出来ない。
「私にはそれが普通、なのです」
「ではお主、友達とやらを集めているようだがその友達、大切な者ではないのか」
ピシリと身体が固まる。
大切、だ。勿論、蝙蝠さんも銀閣さんも白兵さんもとがめさんも…
「貴方が奪うと言うのなら」
するりと刀を抜き構えた。鳳凰さんの口が弧を描いた、きっとこの方には勝てやしないでしょうが知ったことではありません。
本気で殺す。
「いざ、参ります」
______________
"この方がいなくなればこの胸の高鳴りも消えてなくなる。早く元の私に、そして友達に手は出させません"
"この殺気、別人ではないか。我に及ばないながら合格だ。"
[
prev /
next ]