■ 17話/夢うつつ。
霞に覆われているような、そんな感じでした。目の前にいるのは、父上ですか。何故、そんなにお若いのですか。
自身の身体を見る。ああ、私も小さくなっているのですね。
"花子、父さんはなぁ母さんと一緒になる前は凄いモテモテでなぁ、女の人が周りに沢山群がった事もあるんだぞ"
"父様すごいねっ、本当なの?"
"恋文やら手作りの菓子やらを沢山貰ったものだよ"
"本当?ねぇ、本当なの?"
"花子も大きくなったらお嫁に行っちゃうんだろーなぁ、嫌だなぁ父さん"
"わたしもお嫁に行くの?"
"行かなくても良いんだぞ、父さんがいるからな。しかし、母さんによく似て可愛いからなぁ男共が放って置かないだろうなぁ。まぁ、だからこうやって隔離して防犯対策も兼ねて息子が出来たら後を継がせるつもりの流派をお前に教えているんだけれども"
"ぼうはんたいさく?"
"変な男が寄って来たら、父さんが教えた全てを使ってでも殺すんだよ?"
"分かった!でも、父様?"
"ん、なんだい花子"
"よく母様一人に決められたね"
"うん花子、我が子ながら鋭い"
"でも父さん一目見た時から母さんにメロメロでなぁ、もう骨抜き。他の女の人なんて野菜にしか見れなくなってしまった"
"メロメロ?骨抜き?"
"好きになった、という意味さ"
"好き?好きって父様がわたしの事をいつも好きと言っているのとは違うの?"
"好きには二つ意味があってな。愛してるって意味と…うーん、まだ知らなくて良いかな。ねぇ花子、父様好きって言って"
"あっ、ご飯が炊けたみたい"
"うん、いーんだいーんだ。もう、慣れたから"
ぼんやりと浮かんだ昔の光景。
もう私が十以上も前の事じゃないか、あんな父様が私は大好きで仕方がなかった。好き、好き、好き?何故、今になってそんな事を思い出したのだろう。
鳥のさえずりが聴こえて、視界に明かりが映り込む、ああ夢をみていたんですね。
木々の緑に、青い空。
それに、一際目立つ赤い人。
やっと状況が把握できて冷や汗が止まらない。きっと、私は気絶してしまった。そして現在この膝の上、ひひひひざ枕。
「おや、もう起きてしまわれたのか残念」
私の視線に気付いていたのかそのままの姿勢でそう言うと私の髪をするりと撫ぜる。風が吹いて心地の良い筈なのに私の身体は熱く、ドクリと大きく鳴った心臓に口から悲鳴が出そうだった。
鳥だから、とかではない。よく見れば行動一つ一つが人間らしく、容易に判断できた事であった。あまりにも私が嫌い過ぎたあまりに目を逸らしていた所為で見抜けなかったのだ。
髪を撫ぜる手を止めないその人は下を向き私と目が合うと口元を緩ませ残念だと笑う。ああ、なんて綺麗な笑い方でしょうか。
「もう少し寝顔を拝見させて頂きたかったのだけれど」
「人間、でしたか」
「ん?ああ、勿論だ」
顔に付けていた鳥の足の様な装飾を取り、木に持たれているその姿は普通の人間の男性で心から安心して息を吐いた所を笑われてしまった。そ、そんな綺麗な顔で笑ったら怒らないとでも、あっ先に無礼を働いたのは私でした。
「膝をお借りしてすみませんでした」
「いや、それは我が好きでしている事だ」
鳥が嫌いなのだろうと装飾を指刺し笑った。鳥が、鳥がとうなされていたのだと言う、声に出すほど嫌いだとは。流石に私もそれには驚いた。
「故に、我は人間だと証明したく此れを取って起きるのを待っていた次第だ。どうだ、もう平気だろうか」
平気…なのだが、逆を言えば手の上に手を置かれ、もう一方で髪を弄られては平気ではない。とても、顔が熱いし居心地が悪い。
「そろそろ座ります」
「ふむ、それもまた残念」
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「我は名を真庭鳳凰と言う、真庭という姓を聞いた事は?」
「あります。その方に害を加えないと約束して下さるのならお話します」
「極めて承知した」
「以前、真庭忍軍の真庭蝙蝠さんとお友達になりました」
お友達、という言葉にふふふと笑いが零れてしまう。
「ふむ、やはり蝙蝠か」
うんうんと自分で答えに辿り着いたのであろう鳳凰さんは私の手を取り歩き出した。甘い物が食べたくはないか?と聞いてくるあたりきっと甘味屋だと思う。まぁ、蝙蝠さんの知り合いでしたら害はないですよね。
その光景をずっと遠くから見つめる者あり。
その姿を鳳凰は気付いているのか、いないのか。
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