■ 08話/強制という約束。

ガタガタガタガタと襖を開けようとするがまた開きません。コツがいるのでしょうか。

そう思っていると襖が開き、彼が顔を覗かせる。帰ったと思ったと。

「帰る訳ないじゃないですか。料理です、少し遅くなっちゃいましたが…」

襖を開ける時に床に置いた盆を持ち中に入る。横に立つ銀閣さんは私の持つ料理を美味そうだと口にした。嬉しいじゃないですか、料理を人に作ったのは久しぶりでとてもドキドキしていたのだ。

どうぞとお箸を渡すと、味噌汁に手を延ばし腕を口元に持っていき啜った。美味い、とボソッと一言それだけで頬が緩む。

「口に合って良かったです」

こんなもん食えるかーっと盆ごと引っくり返されたらどうしようかと思ってました、と笑うとそんな勿体無い事はしないとまた笑って下さいました。

ふふふ、人に喜んで貰えるとこうも嬉しいものなのですね。
外に出て色々な人に接しないと気づかないとても大切な事に気づいた気がします。

そんなに見られると食いにくい、と言われた私は嬉しくて、ついと伝えた。顔をしかめられたが、嬉しいのです。
では、と隅に行き刀の手入れをする。

「人を斬った事があるか?」

と不意に聞かれた。

「ええ、剣士ですから。でも、不快に感じた時にだけ…何回か山賊と名乗る方々に変な事をされそうになったので斬りましたよ。汚らしかったです、とても、刀が可哀想な程に。」

でも、仕方ないですよね。とても、汚らしかったのでと続けるとそうか、と言い米をつついた。私は首を傾ける。

「人を斬るのは悪い事ですか?」

血を付いた刀をみると皆怖がるのだ、殺さないと言っても皆。

「いや、お前がやっている事は正しい。自分の事は自分で守れるようだな、心配して損した。」

心配…ですか。

そうですか、良かったです。と言うと食事を続けた。

しばらく刀をジッと眺めていると銀閣さんが腕を此方に向けてくる。

「え?」

「味噌汁のおかわりはあるのか?」

はいっと立ち上がり腕を受け取ると、そんな考える事じゃねえ、剣士なんだ。俺はここを訪れたやつ全て斬った、と言う。

ふふ、と笑うとなんだ?と返してくる。

「ふふ、ありがとうございます。
ここを訪れた、私も殺しますか?」

眉間にしわを寄せ早く行けと顎を動かす。
襖を開けたままの為、そのまま敷居を跨ぐと銀閣さんの言葉が背中を押す。

「馬鹿かお前は…殺すヤツにわざわざ飯を作らせて、ここまで深入りしねぇ。」

悩む必要はねぇが、誰それ構わず斬って良いって訳じゃねえ。まぁ、殺しちゃいけねぇヤツは旅をして行くうちに分かってくんじゃねぇのか?

何ですか、最近本当何なんですか。
外に出て会う方々はこんなに優しくて、素敵な方ばっかり何ですか…と心の中で叫び唇を紡ぎ早足で味噌汁を取りに行った。



………


「もう、来るんじゃねぇぞ。」

あの後、私は城を出ました。外まで送ってくれた銀閣さんは冷たくそう言い残し中へ帰ろうと後ろを向く。

そう、言うと思ったんです。

こんな所に住み生命を狙われ続けられる日々が続いたなら、きっと私もそう言います。

「ああ、ごめんなさい。糠床(ぬかどこ)を置いてしまったのでたまに回しにここへ来ます。普段、銀閣さんがご飯食べる時に簡単でしょう?」

溜め息をつき、そんなのは捨てて置くと捨て歩き出す。

「そしたら一生恨みます。寧ろ、あの部屋に糠をばらまきに来ます。」

固まるその背中。優しい銀閣さんならきっと振り向かないでこう言うんだろうな。

「襖を開けた瞬間、花子を間違えて斬らねぇようにしねぇとなあ。」

ああ、開けれねぇのか。めんどくせえなぁ。と、ほら意地悪だけれど優しい。それに、名前を覚えていてくれました。


「また、来ます!」

と、もう中に入ってしまいそうな銀閣さんに大きな声で伝える。

此方を向かずに片手を上げる銀閣さんに大きく手を振った。



______________


父上、友達2人目です。

"静かな部屋だな…元々か。"


(comment*☆.)


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