イケナイ関係中編 | ナノ


▼ 4.甘酸っぱいよ、どうして。



「そ…左右田先生…っ…」





私が入学したての頃、それはそれは上級生に色々と騒ぎ立てられたものだ。何って?あの真庭の事だよ、どこから情報が漏れたのか分からない。けれど口々に回った噂は全校に広がり私を苦しめた。

「鳳凰先生と近所だったんだって?」

それは羨む者もあれば妬む者もいた。時には裏庭に呼び出しをくらい無理やりこの手紙を渡してだのプレゼントを渡してなどと言われ、それを断ればそれなりの仕打ちを受ける事になった。その時、お兄ちゃんを頼ればどうにかなったのかもしれない。けれど、そんな事…したくなかった。

「山田、少し良いか」

そんな時に新任の左右田先生に呼ばれた。学習指導室、なんて初めて入ったから緊張しいていた。けれど先生は「俺も緊張するよ」と少しはにかんで私を安心させてくれた事を覚えている。

「大丈夫か?最近上級生に絡まれてるだろ」

「ええ、でも人の噂もなんとかって言いますから…それを信じて頑張ります」

遠い目をして鼻で笑った私を左右田先生は強いなっと笑って返す。

「何かキツい事があれば相談しろ、吐き出して楽になるなら何時間でも聞く。だから…大丈夫だ」

ただ、頭をぽんぽんっと為れただけなのに今まで溜まってきた感情があふれ出して涙が玉の様に膝に落ちた。

黙って私の頭に手を置く左右田先生に安心し、この人なら何でも話せそうな気がして口を開いた。

「う、うううっ…あ、あたしっ、本当はツラいんですっ」

「……ああ」

「だけど、あの人に頼りたくなくてっ」

「自分一人で抱えてたのか」

頑張ったな、と一言。その言葉がじんと胸に熱く響いた。何故私がそこまで頑なに彼を拒否するのかなんて左右田先生は聞いて来なかった。ううん、左右田先生は私に深く追求してくることなんてなに一つしなかったんだ。話したくないって分かってくれていた。

「そうか……うーん、そうだな」

俯いた顔を少し上げて左右田先生を見れば首を傾げ考える仕草をしていた。
そして、にやっと笑い視線が合う。

「じゃあ、こんなのはどうだ?」

そう笑った左右田先生の顔は夕焼けに照らされて凄く格好良かった。心からこの教室が赤く染められていて良かったと思った。きっと私の顔は今、物凄く赤くなっていると思うから。

その次の日、私はまた上級生に呼び出された。今日はなんだか囲まれている。しかしこれは好都合だ。

「これ渡してくんない?」

「嫌です」

「は?あんた今どういう状況か分かって言ってんの?」

今すぐにでも手が出そうだこの先輩達。私がお兄ちゃんに何も言わないって分かってるからこんな事をしても大丈夫だと皆思ってる。

「先輩、私が今まで真庭先生にこの事を言わなかったのは好きな人に嫌われてしまう先輩達が可哀想だったからですよ。でも、もう私も耐えられないのでやめますね」

「え…な、なに言って」

「そろそろ来ると思うんだけどな、鳳凰お兄ちゃん」

携帯をパコッと開き彼の名前を見せれば明らかにビクリと肩を揺らす女共に噴き出しそうになってしまうが、もう少しの我慢だ。

「え!ちょっ、やばくない!?」

「早く退散しなきゃヤバイって!」

てめー何も言うなよっと走って行く後ろ姿にあっかんべを喰らわせといた。
視線を感じその方向へ顔を向ければ二階の窓から左右田先生が視線に気付いた私に口パクで"よくやった"と微笑んだ。

気づけばもういない左右田先生のいた場所をずっと見ていて始業のチャイムでハッと気付いた。

「顔が熱いし胸もドキドキする…保健室いこ」


それが私がこの先生の事を好きになった、きっかけ。


「山田、何か…あったのか?」

こんな赤い顔を見られたくないと必死にもがいてはみたけれど効果はなくて、それに気付いた左右田先生は掴んだ私の腕を何故か強く握った。

「せ、先生?」

ガラリと教室の扉を開けて出てきたお兄ちゃんに左右田先生は驚きもせずただ眉間に皺を寄せた。

「またお前か」

「ああ、左右田先生。施錠ですか?」

誰も残っていない廊下が少し薄暗くなりなんだか怖い。

「女子生徒の腕を掴んで何やってるんです?まさか…ねぇ?」

「だったらどうなんだ?」

「…花子に手を出さないで頂きたい」

「よくその口で言えたものだな、今の今まで放っていたくせに」

ぐいっと腰を寄せられ左右田先生にぴとりとくっ付く大勢になる。しかもなに今の会話理解できない点が幾つもあって頭が混乱する。

「山田、真庭の所へ戻るか?」

そう言われ、さっきの恥かしい事もあってか首を横に振れば満足そうに左右田先生は"だそうだ"とお兄ちゃんを鼻で笑っていた。
そんなに仲悪かったですか?二人。

そう、思ってると腕を引かれ今私は階段を降りていた。

「忘れ物はないか?」

「へ?あ、はい」

ちょっと待ってろと言われ直ぐに職員室から左右田先生が出てくる。

「流石に車はまずいか…」

そう呟きさっさと歩いて行ってしまう左右田先生を早足で追いかけ、気付いたように振り向いた左右田先生がふふっと笑った。

「…可愛いな」

へ?かわ…っ!?
言葉の意味に気づき、私の顔は爆発したと思う、まじで。頭が機能しない。

ここは…世界史準備室?
左右田先生の担当の部屋に何かようだろうかと入って行くと。鍵と扉の窓にカーテンを掛けられて、少しドキッとする。

「あの…先生?」

「さっき真庭に何をされたんだ?」

ずいっと近寄ってきた左右田先生に見下ろされる。

「べ…別に何も」

「ふうん…」

「先生っ、この体勢は…」

「教師がバカな事をしていると思うか?私も思うよ、だけどやめたくない」

机に追い込まれ覆いかぶされ顔がどんどんと近づいてくる。心臓がやかましいけど、少し怖い。

「何でこんな事…」

少し涙交じりに先生を見上げれば凄く刹那気な表情で私の頬に手を添えた。


「好きと言わねば分からないか?」



(望んでいた言葉な筈なのに今は何故かどう答えたら良いのか、分からなかった)

(それはもう一人の人にも心を掻き乱されていたからだと、涙が零れた)


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