▼ 1.甘い恋な筈だった。
先生、せんせい。
私の愛しの先生。もちろんあの生徒にきゃいきゃい騒がれている眼の細い方じゃない。
こっちの短い赤髪を結った仮面の方。
最初はこんな不審者みたいな先生居て良いのかなんて思ったけど、今となっちゃあどーでもいい。
「さっきから見過ぎだ山田」
やだなあ先生、花子で良いですよと言えば不言、馬鹿を言うなと言われた。
そんな冷たい所も好き。
きーんこーんかん!
あっ、変なチャイムが鳴った。もう教室戻んなきゃ。じゃあ先生ばいばいと手を振ろうとしたらもう遠くにいた。そんな素っ気ない所も好き。
次は国語か早く準備しなきゃドヤされる。
「こら花子、左右田先生ばかり見てないで勉学に励めよ」
うわ、女子の視線の的。世界史隣のクラスだろ早く行けよ私あんた苦手なんだよ。
「はーい、つか先生こそ生徒と恋愛沙汰で訴えられたりしないよーにね」
「子供みたいにベロを出すな可愛いだけだぞ」
うわ鳥肌たった、そう言って教室に逃げればギリギリ間に合ったみたいだ。良かった。
「いやはや手厳しいな」
やぁっとHRの時間だ。
扉が開きその姿を見て落胆する。
「は?」
他の女子は嬉しそうに叫んでるけど私は机に突っ伏した。ふざけるな、私が一日勉学を頑張ったっつーのにこの仕打ちはなんだ、右衛門先生はどこだよコラ。
「はーい、左右田先生は少し用事があってc組のHRは鳳凰先生がやりまーす」
私は突っ伏しながら女子の奇声に耳に指を突っ込む。うわ、真庭こっち見て笑いやがった。真庭の苗字が多いから名前呼びされてるが絶対わたしは呼ばんぞ。
「山田は不満のようだが始めるぞ。皆、静かにな」
「はーあぁぁぁぁ」
「花子、HR終わったぞ」
周りを見渡せば人っ子一人残ってはいなかった。そんなに左右田先生が来なかったのがショックだったかと言われるがその通り、放課後になったのも気づかないくらいショックだ。
「てか、学校では名前で呼ばないでよね」
「小さい頃は我から甘えてくっ付いて離れなかったくせに」
ギロリ睨む。もう昔の事じゃないか、高三だよわたし近所に住んでた頃とは違うからと素っ気なく返し鞄を手にし立ち上がり扉へ向かう途中で掴まれる手。
「なに?痛いんだけど」
「もう学校は終わっただろう?今はただの幼馴染のお兄ちゃん、左右田先生に毎日そんな顔してると妬けるな。花子…我は」
がらり
「あっ、右衛門先生!」
手を掴んでいた小さい頃は良くお風呂に一緒に入っていた人物に離してと冷たく当たる。右衛門先生にはハート付きなのに酷いなと苦笑いされたが当たり前でしょ、私が好きなのは右衛門先生なんだから。
「山田…残っていたのか。早く帰りなさい」
「……はーい」
少し寂しい。こんな姿を見られたのに何も言わない先生はきっと別に私の事なんて何も思ってない。
「花子、今日実家に帰るからおばさんに挨拶しに行く」
「あー…うん」
今言わなくてもいーじゃん、メールでしてよね。お兄ちゃん。とワザと何も無いように左右田先生にアピールしてみたけど、知ってるか…。
この学園で知らない人なんていないし。
「じゃあ、右衛門先生また明日!」
そう言って扉に立つ左右田先生の横を通り過ぎればまた手を掴まれた。
なんだよ、また真庭かよ本当やめ…
え
う
そ
でしょ?
「先生?」
てててて手!手!手!ぎゃおおおっと顔を爆発させていればパッと離される手。まだまだまだまだ心臓がバクバクしてる、駄目だ、死んじゃう。
「……すまない、明日は遅刻するなよ」
「ははははひっ、ではアデュー」
廊下を飛び出た私は何回か転けながらも学校を飛び出た。ぎゃぁぁぉあぁあ!!!
(……立場をわきまえろ左右田先生)
(お前に言われたくはない、歩く十八禁)
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