従者の憂鬱中編 | ナノ


▼  2.どうか私の立場もお考えください



とりあえず、この前の一件は脇腹に肘を喰らわせておいてやったので済んでいる。これは躾だ、しつけ。だらしない我が主の為を思ってやった事なのだ。

銀閣さまも銀閣さまだ!
あたしの忠義をどうとって下さっているのだろう。


「今日の茶は苦えな…」

「申し訳ありませんっ、少し考え事をしていたもので…入れ直しましょうか?」

「いや、いい」


いちいち、めんどくさい。と横になる、何故貴方が面倒くさがるのだ?入れるのはあたしなのに。


「食べて直ぐに寝ると牛になりますよ」

「あー、じゃあ俺は今日から牛だ。よろしく」


もう、この人は。

あたしはお茶をもう一つ入れすすった。

苦い…。


銀閣さまは寝た。この人、眠りは浅い割りに寝るのが早いんだよな。まただ、胸元がはだけている。だらしない、と言うよりもこれでは風邪をひいてしまう。

私は襟元を直そうと手を伸ばす。


−−ガシッ


「ぎゃあああッ」

色気のない声を出してしまう。だっていきなり腕を取られたら誰だってビックリするでしょう?

「な、なんだ起きていたんですか?襟元をお直し下さい。風邪を…」

心臓が鳴った。やめて下さい、からかわないで下さいとツラツラ並べてはみたがどれも効果はないみたいだ。真剣な顔で見つめられて穴があきそう。


「…銀閣さまっ」

「なんだ襲われるのかと期待してたんだが」


「襲いません!あたしの事は男とお思い下さい、好きとかそういう類の事は…」

「思える訳がねえ、からかってなどいねえ、好いていると言わなきゃ分からねぇか?花子」


駄目だ。これ以上近づいては、今まで私が尽くしてきた忠義はなんだったのだ。このような不埒な事をする為では決してない。
それを考えたら何だか悔しくて自分が情けなくて涙が出てきた。

それが地面にシミを作っていき銀閣さまが体を離した。


「どうか私の立場もお考えください 」

(城が建つ頃よりお仕えしている一族の者になんと申せばよいか)

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