▼ 1.一時の気の迷いに流されてはいけません
「まずその手をお止め下さい」
御膳を下げる為に伸ばした手を掴もうとする銀閣様の手を叩く。なんだよ別にいいじゃねえか生娘じゃあるまいしと悪態をつくがそういう問題ではないだろう。
「あたしは貴方の従者です。貴方をお守りする為、身の回りのお世話をする為にいるのです。貴方の夜のお世話なら町から借りて来ます」
あー、そーいうの別にいいわ。面倒だしと頭を掻くのはあたしの主でありここ稲荷の領主、下酷城の城主でもある銀閣様である。
とりあえず怠け者。
「もう此方にはあたし等しか居ないんですからしっかりして下さい」
砂漠化したこの地には既に誰の姿もない。この城の中にもあたしと銀閣様だけ。先代から仕えているというのに皆、忠誠心がなさ過ぎるのではないか?あたしは既に仕えた時に生きるも死ぬも銀閣様と共にと決めているというのにいざという時直ぐに城を去った皆があたしは許せない。むしろ夜な夜な呪っている。死ねばいいんだ、みんな。
「さて風呂の用意をして参りますね」
「一緒に入るか」
「黙れ、あんたはここでうたた寝でもして居て下さい」
「食べて直ぐ寝たら牛になるだろうが」
? え?貴方いっつも呼びに来ると寝て居ませんか?寝てますよね、あの襖の建て付けの悪さの音で起きるくせに。
「銀閣様は刀をお守り下さい」
あたしは風呂へ行くと例の襖へ手を延ばせば掴まれる肩。もう、なんなんですかさっきから!家事が全然進みません!と言えば後ろから羽交い締めにされた。
羽交い締め…いやこれは違う、あれだ。
抱きしめられているというやつじゃないのか?
「ぎぎぎぎぎ銀閣さまっ!!」
「おーおー反応が可愛いこと」
突然の行動に身体がカッと熱くなる。
な、何をしているんだこの人は、以前までは普通の態度だったのに!まぁ普通と言っても銀閣さまだから砕けた態度には代わりはないのだけれど。
「離して下さい銀閣さま」
「…無理だ」
「駄目です。…銀閣さま、一時の気の迷いに流されてはいけません」
仮にもこの下酷城と私の主なのですから。
(とりあえず反省して下さいね、明日おやつ抜きです)
(そりゃひでえ)
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