■ フリリク 蝉時雨様へ 蝙蝠



あのね、蝙蝠くん。私は君の事が大好きなのだけれど、君はどうなの?え、嫌い?まさかそんな筈ないよ、だっていつも私の事を気にしているじゃない。

「お、おま…」

馬鹿だろ、と私以外の場所ではきゃはきゃはと言う可愛い笑い声をあげるくせにと今は呆れた声でそう見下す君を見上げる。

「なんで馬鹿っていうの?」

「馬鹿だから馬鹿なんだよ」

一言そう言って別れの挨拶もせずに姿を消す、別にいつもの事だ。さみしくなんかないよ、別に。

「あーあ、花子ちゃんってば」

「あ、姐御」

振り返れば木に背をもたれた狂犬が立っていて、首をふるふる振っている。

「駄目ね、駄目駄目、全然駄目」

あれ?今ので駄目って何回言われたのだろう?少しムッと眉を寄せたが直ぐにえいっと眉間を指で広げられる。

「わかってないわん、男のキモチが」

「男のキモチですか?別に他の男はどうでも良いんです。蝙蝠くんだけ欲しい」

はははと呆れた様な渇いた笑いを浮かべる姉御はだから駄目なのよ、と言う。

「だから相手にされないのよん。あんたどうして蝙蝠にだけあんなに執着してんのよん、むしろストーカーじゃない」

ストーカー?そんなつもりはない、非番の日はいつも遠くから蝙蝠くんの仕事をみていたりたまにお弁当作ってあげたり少し惚れ薬盛ってみたり寝てる布団に潜ってみたり…

「それ、彼女じゃないあんたがしたら確実にストーカーよん」

「え、そうなの?」

そ、そうか…あれがストーカーなのか、見知らぬ人が凄い後ろからデヘデヘヨダレを垂らしてやらしい事を妄想しているのがストーカーの定義だと思っていた。

「そのままじゃ嫌われても仕方ないわよねん」

「いやもう、それがさっき嫌われちゃったんですよ、どうしよう」

え、その姉御の顔ったらない。もう笑いを堪えているような、人の不幸がたまらなく好きみたいなそんな顔。

「ぷふっ、だ!大丈夫大丈夫!あんた蝙蝠じゃなきゃ普通なんだから次よっ次!」

完全に笑ってる、完全に面白がってる。

とりあえず姉御が胸を張って私の前に連れて来たのは蜜蜂だった。蜜蜂は慌てながら説明してくれと姉御に詰め寄り一人で帰ってくる。

「あ、あの…ほんとに蝙蝠さんと喧嘩したんですか?」

信じられないと言ったような顔をして私を見る彼にまぁ嫌われはしたと告げればあまり納得のいかないような風だ。なんだかわからないけど姉御に言われたとおり蝙蝠くん以外の人と今日は一日過ごしてみようと思う。

「うん、とりあえず」

「え!あ、あのっ」

男女と言えば手を繋ぐものだと言う。私よりもだいぶ背が高い男を引き連れて歩く。

評判の良い団子屋を訪れ、河川敷で腰をおろして談笑、そして里へ帰ってからも彼と共に過ごしてみた。

「なんかいつも通りだね」

「ええ、まぁ、はい」

よく考えたらたまに蜜蜂とは団子屋へ行くし蜜蜂の仕事の相談も受けるしまぁ、里でも普通に出くわしたらたわいのない話もする。
それがただ今日は一気に全部しただけ。

「うーん、じゃあ今日は蜜蜂の所で寝…」

その時、ガッと掴まれる腕にえ?と顔を上げれば至極機嫌の悪そうな蝙蝠くんが居て、久しぶりのその顔に私は嬉しくなる。

「お前やっぱり馬鹿だわ」

「え?」

「おい蜜蜂こいつ借りるぞ」

え、あっ、はい!っとただ上擦った声が聞こえて直ぐに視界が暗くなる。そして、宙を飛んでいる感覚。直ぐに下ろされた所はどこか分からないけれど里からそんなに離れていない森の木の上だと思う。ああ、あんな所に里が見える。

「何で今日は俺の所に居なかったんだ」

「え、いや…だって」

「探しに行けば蜜蜂といやがるし里に帰ってくれば直ぐ俺の所に来るだろうと思えば蜜蜂と寝るだと?本当馬鹿だな、ほんと俺お前の事嫌いだわ」

嫌い、また言われてしまった。

「嫌いなら、気にしなくても…」

「……きゃはきゃは!」

は、初めて私の前で笑ってくれた…目をぱちくりさせてその姿を焼き付けようとしていれば、あ、そういえば嫌いって言われたばっかりだったとうつむいた。

「………こっち見ろっ」

首が引きちぎれるんじゃないかってくらい両手で無理やり蝙蝠さんの方へ向かされる。がっちり合った真っ黒な目に一瞬ドキリとする。

「俺が好きなんだろ、だったら俺のそばにいりゃそれでいーんだよ、他の男とイチャイチャしやがって浮気してんじゃねーぞ、生粋の馬鹿だなテメーはよ。聞いてんのかおい」

うん?頭の上にぽんぽんといつくかハテナが浮かぶ。

「蝙蝠くん私の事嫌いなんじゃなかったの?」

「え、それは、なんつーかホラ、アレだよアレ。まぁ兎に角、いつも通り俺のそばにいろよ!す…す、す…」

「す?」

「……お前の事が好きになっちゃってんだよ、責任とれ、あほ」

顔が熱いし動けない。顔を逸らしていた蝙蝠くんがこっちを向いて顔を近づけてくる、大変だ。でも、なんだかんだで積極的なアピールは成功していたみたいです。



「なぁに、アレ?」

「ですから、僕達は二人が両想いだってことを知っていたんですよ。だから止めたんじゃないですか」

「ま、まぁ、結局あたしのおかげで蝙蝠ちゃんがヤキモチを妬いてくっ付いた訳だし一件落着ねんっ」

「とんだ茶番ですよ」


まぁ、要するにいつもの「こっち寄んな」「馬鹿かてめーわ」「嫌い」これらの言葉の数々はただの照れだったのですね。周りから見たら耳を赤くしたり花子がいないと挙動不審になる蝙蝠を見ていればなんだこのカップルはって話になる訳なのでした。

「蝙蝠くん、好きです」

「バッ!うるせー!…知ってるっつーの」





おまけ

一話「絶刀.鉋」

「久しぶりだなぁ、仔猫ちゃんきゃはきゃは!」
「一つ聞いてもいいか?」
「あ?なんだ?」
「あの木の影から顔を覗かせて頬の中に餌を溜め込んでいるリスの様に頬を膨らませてこちらを見ている女の忍はなんだ?」
「あん?あ、ああ。気にしないでくれ」

「気になって戦いに集中できないな」
「七花、罠かもしれんぞ、気をつけろ」



あとがき

蝉時雨様へ5万hit記念でフリリクを書かせて頂きました。こんな夢主も良いなと少しいつもとは違う夢主を書かせて頂きましたがいかがだったでしょうか?蝙蝠さんが好き過ぎてツラくなりアニメ一話を見返してしまいました。久しぶりに振り返ったものでいつも連載ではお馬鹿さんな子達が!と見ていると胸がきゅんきゅんしてしまいました。アニメ最高、再加熱です。
それでは、いつもご愛読ありがとうございます、これからもこのサイトを見守って頂ければ幸いです。

管理人、ひまわりより。
2013.11.20

(感想ぶちまける。)

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