■ アイザックと動揺。
※これは大災害前の夢主ちゃんとアイザックのお話です。
どうしたもんか、今日はいつにもまして隣で潰れている女を横目で見ながらビールをゴクリと呑む。
仕事帰りに呑むのは別に珍しくもなんともない。加えて今日は花金という奴だ。俺たちは行きつけの居酒屋に寄りがっつり酒を呑もうという話だったのだが、こいつ今日はペースが早い。時計が回る頃にはベロベロになっていた。
「ねぇ、ほんと聞いてまじで」
「ああ、さっきから何度も聞いてる」
同じ話題しか話さねえ、まじで怠い。
「もう本当さぁ、あの装備のセンスの良さったらないよね。それにあの声、かわいいよぉ〜歳下にいつ目覚めたのかって?ソウジロウ君と会ってからだよ、もう押し倒して泣かせたいよ犯罪かな、これ犯罪に入っちゃうのかなぁ」
「そうだな、とりあえず警察へ連絡はするわ」
日本酒の瓶を人差し指と親指でゆらゆらと揺らしながら変態な発言をする花子を置いて居酒屋を出ないあたり俺は意外と優しいと思う。しかしまぁ、なんだ。酒を呑むと赤くなりやすく伏せ目がちなこいつは意外と色気があって可愛い。絶対言わねぇけど。
「それでね、それでねっ、えーと」
「ああ、はいはい」
明日はお互い休みなのだがとっくに日にちをまたいでいるし、どうするかと時計を見れば花子が俺の時計がついている方の腕を掴んでビクリとする。
「…なんだよ」
「今、何時?」
「もう1時過ぎだ、そろそろ帰るか?」
そうだ、俺は別に明日はぐうたら過ごそうと思っていたがこいつは予定があるかもしれないと思って促せばヘラっと笑って「え?おやじ?やだなーおや時とか古いよアイザックーさすが本物は違いますね」とかふざけた事を抜かしやがる。俺がいつまでも黙って聞いてると思ってんのかこいつ?
「テメェな…」
「きゃーっ厳ついくせに可愛いものが意外と好きでマドラーをストローだと勘違いしていつまでも吸ってたりペットボトルキャップしたまんた飲んでたのを見られてないかキョロキョロしてるおじさんに犯されるー」
「な、おい、ちょっ…見てたのかよ」
かろうじて人に聞こえていないような声で言った事に少し安心した。そこまで悪酔いはしていないみたいだ。だけどそれを見られていたとは…すげぇ恥ずかしい。
「おら、もう帰るぞ。支度しろ」
「えーもっと呑もうよ、明日休みじゃん」
やだやだと駄々をこねる姿はまるで子供だ。試しに「帰りにコンビニでアイス買ってやるから」と言えば縦に頷いた。本物だった。
もたもたとヒールを履いている花子を置いて先にレジに言って精算してれば少し慌てた様子で自身のバックから財布を取り出している。その辺は結構しっかりしてんだよな。
俺は別にいい、と手で制して店を出た。
結構さみぃな。
「うわーまたゴチになっちゃった」
「収入がちげぇからいいんだよ」
「彼女も金の掛かる趣味もないし?」
「うるせぇよ」
「あはは、ありがとうアイザック。ご馳走様でしたっ」
ぐっ…本当抜け目ねぇっつーか。さっきまであんな酔いつぶれてたくせにしっかりお礼とかその斜め45度はさすがにグラッとくる。
さっさとコンビニでアイス買ってやって帰らせよう。
そう思って近くのコンビニで前から食べたいと言っていたアイスを買ってやった。
「家まで送る」
そう言うとぽかんと口を開けて「え?」と首を傾げる。俺なんか変な事言ったか?
「家まで送るっつってんだよ、早く…」
「今日アイザックんち泊まるけど」
え、今度は俺の聞き間違いか?もう一度聞き返してみるが同じ言葉がかえってくる。
「は?俺んち?」
「うん、お泊まりグッズも持って来たし」
帰って1人も寂しいじゃない?とまた可愛いく首を傾げるが、おおおおおい!ちょっとまて何でメイク落としやら洗顔やら化粧水なんかのお泊まりセット用意してきてんだコラ。
やばい俺動揺しすぎてねぇか、ちょっと手震えてんぞこれ。
「はいっ、しゅっぱーつ!」
「おおおおい!?」
無理矢理に手を引かれ帰り路を歩く。
まじかよ、どうやらこいつは本当に俺の部屋にお泊まりするつもりらしい。
あ、やべー部屋片付けてない。
(あはんうふんな雑誌とか)
2014.04.09
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