■ アイザックの悩みの種。
もういやだ、と思う。
何でやっと顔を見せやがったと思えばセタと一緒にいやがる。 更には付き合ってるだと?まじやってらんねぇ。それに一方的にあいつの方が好きなのかと思ってりゃあセタの方がご執心だ。なんかの呪い使ったんじゃねぇだろうな。
「なんなんだよ、本当」
俺の方が長くいて、俺の方がお前の一番近くにいると思ってたのに違ったのか。勝手に俺の中に土足で入ってきたくせに、 勝手にどっかに行きやがって。お前からは離れねぇと安心しきってた俺が悪かったのか。もっと早く行動していればお前は俺の所にずっと居てくれたのかよ。
お前等を見るたびにイライラする、どっかにあたらねぇようにするのが精一杯で、いや機嫌が悪いのを表に出している以前でもう周りに気を使わせているのかもしれねぇ。
「花子さーん!」
ちっ…外へ出れば会いたくなくても顔をあわせちまう。出来るだけあいつ等が通らないであろう道を通ってきてんのにまじなんなんだよ。遠くに見えるそれを俺は無視して歩いた。
きっとあいつ等は気づいてな…
「あああ!!アイザック!!」
肩が揺れる。無視するべきなんだろうあいつの声に反応して止まっちまった。ちらっと伺えばヘラヘラとした顔で手が千切れんじゃねーかってほどに手を振りながら結構な距離をこっちに駆けてくる花子が目に入る。おい、セタ置いて来てんじゃねーよ。こっち睨んでんじゃねーか。
「アイザック!」
チラチラ覗き込んでくんなよ。俺が何も言葉を発さずにいれば右左と下から覗き込む花子。あー、まじで止めろ。可愛いだけなんだよ。
「……」
「アイザック!!」
「…んだよ」
「なんなの、おこなの?無視したよね、シカトだよね今の!」
頬を膨らましておこなの?と訊いてくる。なんだよおこって。怒ってるのかって事か?まぁ、そうか。何も言わずに無視されたらそりゃ良い気はしないよな。
「あー、…悪い」
「もう!良いよ、まったくアイザックは、そんなデカい図体でボーッと歩かれたらぶつかった人骨折どころじゃ済まないんだからね」
気をつけるようにと言う花子は俺と違ってセタと付き合う以前とは変わらないみたいだ。一人でバカみてぇ。
「あー、気をつけるわ。じゃあな」
「ちょ!やっぱ怒ってるっ、なんなの!最近ことごとくわたし避けてるよね、分かってるんだからね!わたし何かした!?」
「………手」
別れを告げて歩を進めようとした俺の腕を掴む花子はうっすら瞳に涙を溜めていた。なんで泣くんだよ。セタと付き合ってんだろ、俺が居なくても別にセタが側に居てくれんじゃねぇか。それでも俺に前みたいに側にいろってか、悪魔かテメーは。
「セタが待ってんぞ」
「いやだ」
「バカ、彼氏の前で他の男の腕掴んでんじゃねーよ」
「いやだ、やだ、なんで」
子どもみたいに首を横に振る。なんで、か。そういやこいつは俺の気持ちを一ミリも知らないっけな。
ほら、セタが痺れを切らしてこっちに歩いて来た。お前が大好きで大好きで堪らなかった彼氏のお迎えだろ。
リアルの世界で俺の家や仕事帰りのいつもの居酒屋でセタの話を聞いていたのとはわけが違うんだよ。それがいま叶っちまってるんだから、お前は俺から離れなきゃいけねぇ。
まさか、まだ俺の部屋に来る訳にはいかねぇだろ。二人で呑む訳にも、ベタベタくっつく訳にも。
楽しかったけど、終わりなんだよ。
お前の幸せを壊す事になるからな。
「なんで怒ってるのかだけ言ってよ、行かないでよ、アイザックのバカ」
「怒ってねぇよ、ただもう終わりだ」
「お、わり?」
「今までみたいに仲良くすんの」
「な、なんで?わたしの事嫌いになった?いきなり後ろから飛び乗ったり、バカザックとかデカザックとか変なあだ名で呼ぶのとか?お酒呑むと悪酔いする事とか?なら直すから、お酒だって呑まないから、ごめんなさい、アイザック、嫌いになんないでよ」
ポタポタと地面を濡らす花子の涙。俺はほんと最後になにやってんだよ。頬を伝う涙をぐいっと指で拭う。
ほんと顔ちっせぇな、手で隠れそうだ。
「別にそうじゃない、ただ…」
「……っただ?」
「お前の事がずっと好きだったから」
だからこれ以上、俺を苦しませないでくれ。
セタが花子の肩を叩く前に、俺はその場を離れた。これで良かったのか分からない。ただ、もう俺はお前とセタの一緒にいる姿を見たくなかった。お前にしたら勝手な奴だろうな。
この後、自室に帰って泣いたらレザリックに見られた。ちくしょう。
2014.04.08
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