■ なんていうギャップ。

「だから、あっちで待っていて下さい」

「あ?ヒマなんだよ」

用がないのならここから直ぐに立ち去って欲しい。この女が少なく、そしてサブ職業を料理人にしている人なんて数少ない黒剣騎士団のご飯作りは当番制、そしてあまりサブ職業のレベルあげしていない私のところにも料理当番が回ってきたわけだ。
材料はもうしぶんないし、時間もある。なにを作ろうかな〜と鼻唄を歌っていれば視線を感じた。そーっと後ろを見れば、それはデカいイカついコワい三拍子揃った我らがボスが可愛く顔を覗かせているわけで、そのまま見られているのも嫌なので今話掛けているんだけど、何この人。

「ねぇほんとお願いだからどっか行って下さい」

「このままじゃ調理場がこっぱみじんになるだろうが」

「……なっ!」

私は言葉を失った、こっぱみじん…そ、そこまで私は料理が下手ではないし、確かにリアルの世界でもそこまで料理に触れてきたわけでもないけど。

「そ、そんな言い方しなくたって良いじゃないですかぁぁぁ…」

一週間前の当番のときに茹で卵を楽に作ろうとして電子レンジへそのまま卵をいれて爆発させてしまったのを思い出し、膝に顔を埋める。あれはとても怖かったしそれ以上に恥ずかしかった。
あんな口をあんぐり開けた団長なんて見た事がなかったよ。

「お、おま…泣いてんのか?」

「へっへー泣いてませんよバーカ」

狼狽える団長にちろりと舌ベロを出してやれば顔を赤くしてぷんぷんと怒り始めた。

「って、めぇ…俺がわざわざ心配して手伝いに来てやったのに」

そこまで言ったあとに「あ…」と口に手を当てて黙り込んでしまった。
もしかして…

「心配してくれたんですか?」

「〜っそう言ってんだろうが何回も言わせんなアホが!」

もう、なんだ。ずうっと見てたのはわたしを心配してくれてたからなんだ。そう思ったら何だか嬉しくて頬が緩んでしまう。そしたら何ヘラヘラしてんだと頬をつねられた、痛いなぁ。

「なに作るんだ?」

「お、オムライスです」

そう、作るなら比較的簡単なカレーが良かったのだが先日作ったばかりの為、今日のレシピはこれになった。オムライスも簡単だぞと言われたけれど、そんなわけない。私は材料と睨めっこしていた。

「飯は炊けてんのか」

「え、ああ、はい」

団長はテキパキと作る準備をしている、どこから持って来たのか分からない可愛いエプロンもしてるしほんと今日どうしたの?

「まぁ作るのはお前じゃなきゃ飯は出来ねぇから、補佐くらいならしてやるよ」

とりあえず野菜をみじん切りだとまな板の上に大量の野菜を置かれる、野菜ごとのボウルも用意してくれていて、私がゼーハーと切っている間にも色々動いてくれている。これ一人でやっていたらきっと夕時に間に合わなかっただろうなぁとタマネギを切りながら思った。いつものように目に染みて涙が出てくる。ボヤぁっと視界が曇っていてよく見えない。チクリと指に痛みが走るとそこから赤い血がポタリと落ちる。

「………水で洗わなきゃ」

「ん?ぉ、お前!切ってんじゃねぇか、大丈夫かよ結構血出てんぞ!」

うおおおおっと大きな声を出す団長を眉を顰めてみる。

「そんな対した事ないですから」

「ったく…」

−−ぱく。

「のわぁぁぁぁぁ!!」

な、なに普通に指くわえてるんですか!!私は言葉にならない叫びをあげてその光景を見る。なんだこの光景は!!団長が指をくわえて、伏せ目がちで…あっ、睫毛意外と長い。とかってちがーーう!!

「ちょ、も、良いですから」

「ん、おお。そろそろ血止まっただろ…ってかお前、顔すげぇ赤いけど」

くしゃりと笑う団長に決してときめいてなんかいない、心を鷲掴みにされてなんかいない。

「ば!絆創膏、探して来ます」

「ここにあんぞ」

「へ?」

エプロンのポケットから取り出された絆創膏に少しビビる。なんですか?その女子力はさっきから気配り凄かったり垣間見えてるんですけど。
ペタりとペティーちゃんの可愛い絆創膏をしてくれた団長にもう胸のドキドキが止まらなくて、顔を逸らす。

「ぁ、ありがとうございます…あ、もうこれだけ切れば終わりです」

「ふーん、じゃ炒めっか」

ちょっと待ってろと言われて、帰ってきた団長の手に持たれたのはそれはそれは大きな中華鍋の様なフライパンで目をパチクリさせた。

「普通のフライパンで作ってたらきりがねぇだろ、とりあえず補佐は任せろ」

…とは言ったものの、団長は後ろから覆いかぶさる様に私の手の上から鍋の持ち手を掴む。密着度が半端ないしなんだか息遣いまで聞こえて来て私の心臓はバクバク音を鳴らしている。

「さ、炒めるぞ」

混乱しているとも気づかずにさっさと油をいれて鳥肉、野菜を炒め始める団長。もう両手を上から掴まれて心臓が破裂しそう、こんなわたし団長の事好きだっけ?てか、団長の手すっごい大きい。

もうケチャップの工程とかご飯を入れた工程とか覚えてない。たまに顔を覗き込まれて大丈夫か?と聞かれるのだがその行為にもときめいてしまってほんと料理どころではない。

「さ、次は結構大変かもな」

もう、気づけばチキンライスは完成していて言葉を失った。次は、わたしが最も恐れていた難所、卵でくるむ作業だ。顔を青くしていれば大丈夫簡単だと手を置かれた。その頭に置かれた手に少し安心して目を細めれば、団長がパッと手を離すものだから少しムッとした。…もう少ししていたかったのにな。


「っ、ほら卵割んぞ!!」

なんとか綺麗に殻だけを割るやり方を教えてもらい、すごい数の卵を割る事に成功した。多分もう人生の中でこんなに卵を割る事はないと思う。そしてもう当分は料理したくない。

カチャカチャと音を立てて卵を混ぜていれば普通のフライパンにバターを溶かす団長がいて私は首を傾げた。

「あのデッカい鍋でやんないんですか?」

「一人分ずつ作るんならこっちの方が早いんだよ」

そう言ってまた私の後ろに二人羽織のようになり手をぎゅうっとされた。それにも少し耐性が付いて来て上にある顔を見上げたら少し困った様な表情で団長が顔を赤くしていたから私もつられて赤くなってしまう。

「余所見すんなよ」

「団長、顔赤いですけど」

「うるせー、お前に言われたくねぇよ」

確かに私も熱い…でもそれは全部団長のせいなんだけど。
卵でくるむ作業はありえないくらい早かった。広げた卵の上にチキンライスを置き、フライパンをとんとんと叩きながら形を作る。一つに三十秒も掛けてない気がする。

そして綺麗なオムライスがずらりと机の上に並び美味しそうに湯気をあげている。

「出来ましたね、凄い…」

「まぁ、こんなもんだろ」

後片付けもささっと終わらせれば、団長があーんと言ってくるので反射的に口を開ければ口の中にトマトの風味がまろやかに広がる。すっっごい美味しい。

「やばい!アイザックさんやばい!」

「だろ?…今日手伝ったご褒美くれよ。色んな事に気い使い過ぎてすげー疲れた」

「え、あ…そうですよね!うーん、どうしよう、今何も持っていなくって」

子供みたいにはしゃいでいる私の肩に片手を置いた団長にどうしたんですか?と首を傾げていればふと唇に柔らかい感触が当たった。
離れて行くアイザックさんの顔に頭から蒸気があがる。

「なっ、なっ、あああ」

「…なぁ、これからも一緒に作っていいか?」

ペロリとくちびるを舐めながらそう言ったアイザックさんにわたしはコクコクと頷くしか出来なくて、そんな様子を見てアイザックさんはわたしが一度も見た事ない顔でふわりと笑った。


(もう、反則ですよ…)

(こうすればいくら鈍くても意識ぐらいしてくれんだろ?)


2014.02.28 ひまわり。
蜘蛛様、フリリクありがとうございました。楽しく書かせて頂きました。最初、料理が出来ないアイザックさんを弄ってやろうかなぁと思っていたんですがギャップと言う名の萌えを求めて料理が出来るアイザックさんを書かせていただきました。リアルの世界では一人暮らし(同棲とかしてたらどうしよう、理想は一人暮らし)でしょうから多少はできると思いますがアイザックは何だか意外と器用そうですよね、他は大雑把だけど意外と部屋も綺麗だったりとかなにそれ萌えます。
いつもご愛読ありがとうございます。これからもサイトの運営を見守ってください。


(感想ぶちまける。)

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