■ アイザックと居酒屋で。
これが私たちのリアル。
猫暖簾という名前が書かれた暖簾をくぐり扉を開ければガヤガヤと仕事を終えたサラリーマンやらカップルやらが賑やかに酒を呑み花の金曜日を楽しんでいる。
きょろきょろと当たりを見渡せば既に生を頼み口につける大男が片手を上げて私の名前を呼んだ。
「もー、分かりやすくて助かる!」
「遅えんだよ、まったく。先呑んでんぞ」
みりゃ分かるっつーのっと告げて隣に敷かれた座布団へ疲れた腰を下ろす。
周りからお疲れーとかお疲れさまとか言われて肩の力が抜ける、はー疲れた。
今日はエルダーテイル内で良くパーティーになるメンバーでのオフ会、高レベルなプレイヤー仲間の集まりだからやはり名が知れたな人が多い。まぁ知らない人に顔を知られたくないから小規模だしリアルで会える人はやはり限られてはいるけど…あ、やっぱり今日もシロ君と班長は来てない。
直継と言えば隅っこの方で周りを巻き込んで盛り上がっている。
「おにいさん、生ちょうだい」
…いつも思うんだけど、響きが…。
「アイザック何杯目ー?」
「三杯目」
ふーん、まだ始まったばかりか。とアイザックの呑む酒のペースで確認をとる。直ぐに冷え冷えのビールが届き気分が高まる。
「とりあえず乾杯」
「おー、お疲れーす」
カチンと音を立て、炭酸を喉に流し込む。う…んまい、もう本当まだ若いはずなのにビールが美味く感じてしまう。ぷはぁーっ!なんて声を出せばアイザックがオヤジかって笑ってくるし。
「オヤジはてめーだろ」
「俺はまだ2○だ!!」
「見えない見えないっ、わたしと同じ二十代な訳ない、あはは!」
たくお前なーと三杯目のジョッキを開け、沢山のお兄さんがいる中でお姉さんに生を頼む所があざとい。絶対、選んでるなと笑いながら言えば目をキラリと光らせニヤリと笑う。
「馬鹿、男より女に持って来て貰った方が得だろうが」
「そっか…なんて納得する訳ないでしょーがスケベっ」
「男は皆変態だ、直継然り俺然りな」
「うわー皆お前と同じだと思うなよ」
くはっ!と噴き出してしまう。ほんとこいつといると飽きないな。最初にあった頃はなんだこの上から目線の兄ちゃんはと思っていたけれど茶会の中では一番気が合い今ではこの通り酒を呑み交わす中である。
なんだかんだで気があうんだよな、絶対言わないけど。
そう思いながら目の前にある唐揚げを口にする。もう冷めつつあるそれをもぐもぐと頬張りながらバイブが鳴った携帯を開く。あー…昨日の合コンの奴か。メールしつこいな。
ーゴソゴソ…
「あ?良いのか?」
「んー良いの良いの」
「…まさか男か?」
「昨日合コンで知り合った人」
「へぇ…」
「なになに?気になる?」
「はぁ?馬鹿じゃねーの、誰が」
本気にする事ないのに、こーいう冗談はつうじないんだから。アイザックは体がデカい、土木建築って聞いた時は勿論作る方だよねと思ったが結構偉い指示をする方らしい。収入もきっと申し分ない。そして顔だが、鼻もスッとしていて目つきは鋭いが全体的に整っている方だとわたしは思う。
きっと女には不自由などしていないだろうなと言うのが第一印象だった。
けど、違うんだよなぁ。
「っあち!んだコレ…ちくしょう」
見かけによらず猫舌で、恥ずかしい時には小さい声で悪態をつき目が泳ぐ。
「案外、可愛いんだよね。あ、でも、歳上にモテるんじゃない?アイザック」
「は?モテモテに決まってんだろ、毎日メールが途切れねぇわ」
…………嘘がヘタ過ぎる。
きっとこいつ、興味ない奴からメールが来ても無視する自分に正直者なタイプだ。
「セタはこういう呑みには参加しねぇからな、年齢的に」
「ソウジロウ君、可愛いほんと可愛い、もうちょっとお酒呑ませて顔赤くしたりしたらどうしようそんな事になったらわたし鼻血止まらないよ、アイザック同じ血液型だよね輸血よろしく」
「というかお前、セタの近くに行かねえじゃねぇか」
「バカ、行ったら死んじゃうよ」
「………別にどーでもいいけど」
なんだか自分から話題を出しといて機嫌を悪くしている。ソウジロウがハーレムギルドのマスターで羨ましいのは分かるけどあからさまに膨れなくてもいーのに。
「あんなモヤシのどこがいーんだか」
「だから、私にソウジロウ君の好きな所を語らせたらきりないってば」
聞く?聞く?と言ってみれば更に機嫌悪く頭を小突かれたので、私より幾分も高い所にある頭には届かないから、横にある二の腕を思いきり殴り返してそこら辺のサラダやら焼き鳥を更に取り分ける。
「お皿、一緒で良いでしょ?」
多めに取った皿を前に置き笑いかければ、面食らった顔をして目を逸らす。
「なっ、お…」
「え?そういうの駄目な人?だったら良いけど…」
「別に良い。お前さ、合コンでもそういう事してんのかよ」
そのアイザックの言葉に首を傾げる。
「仲良い人しかしないよ?」
みるみるうちに赤くなる顔を誤魔化すかのようにジョッキの中の酒を流し込む。それでは物足りないのかおかわりを二つ頼みそれも一気にかっ喰らった。
「アイザック、変なのっ」
笑いながら焼き鳥を食べる彼女の横顔に心臓を握り潰されるアイザックなのでした。
(馬鹿か、真性の馬鹿だろ。無意識でそういう事とかほんとねぇから、なんだこの心臓は。俺、病気なんじゃねぇのか?明日、病院開いてるっけか?とりあえず、今日はもうこいつの顔真正面から見れねえわ)
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