■ 悲しい嬉しい卒業式。
左右田先生には教師と生徒という立場から脱却出来る待ち望んだ嬉しい卒業式なのですが、花子にとっては大好きな先生の姿をもう一生見れなくなってしまうというとても悲しい卒業式でございました。
「そんなに泣かなくても良いだろう」
「うっ、うぇっひぐ!だ、だっ、だってえ」
卒業式は終わり、生徒同士が写真を撮ったりはたまた好きな相手にボタンを貰ったりとしている中で花子だけが号泣という変な光景になっている。
そんな隅で周りから見たら担任の先生と過剰に別れを惜しんでいるように映るのだが、皆から聞こえない会話の内容はあってはいけない関係の内容である。
まぁ、遠くで女子生徒に囲まれてこちらにくる事ができない教師もいる事だから別に気にすることじゃない。ちらちら此方を気にしているようだが知ったことか。
花子は目元をぐしゃぐしゃと袖で擦り泣いている。呆れ顔で上から眺めていればあちらから走って来る男子生徒がいた。
何か言いにくそうな照れた表情でなんとなく花子の事が好きなのだろうと分かるがあまり気持ちがいいものではないなと息を吐く。
「山田、あのさ、ちょっと良いかな?」
「無理、良くない、邪魔すんな」
………。言い過ぎじゃ…まぁ良いか。
半泣きで走り去る男子生徒の後ろ姿を哀れに見る、がしかしその言葉を口にする時に見えない所で私のスーツの裾をぎゅっと握って行きたくないと誇示している姿がとても愛しく思えてしまったのだから仕方が無い。
「先生〜っぇぐ、先生」
「もう先生じゃないんだが」
「そんな事言わないで下さいぃ〜、分かってるんですよぉ」
ばかばかばかー!と横から力を込めているのかも分からない拳でぽこぽこ叩かれる。
「分かってるんですけど、もう先生の授業受けれないと思うと…っうぅ〜」
「……お前、当ててもろくに答えれないじゃないか」
「そ、それは…先生の姿を一部始終みていたら、あ!耳に左右田先生の声は入ってくるんですけど流石に授業の内容までは…」
しどろもどろにそう答える花子を横目で見る。まったく、嬉しいやら悲しいやら。再テストにはならないよう家で補習はしっかりしていたから良かったものの。
「本当、卒業できて良かったよ」
「哀れな目で見てますよね、絶対」
付き合ってからの日々を思えば左右田にとっては我慢の連続で、どんな拷問だと思うこともあったが、その小さな体を抱き締めているだけで仕事で疲れた体を癒すことも稀ではなかった。
これで周りの目を気にせずに付き合える。
「花子」
「はい?」
「この後、俺の家に来るか?」
−−我慢した分、お前の全部が欲しい
卒業、おめでとう 花子
「…ッ〜せんせいっ!まだ学校なんですけど」
俺にとってはらしくもなく、まだ学校というのにも関わらず人の目を盗んで耳に近づきそう告げて甘噛みを残し顔を離した。らしくない事が山積みで、本当昔からこの少女にはくるわされてばかりだなと迷子だった少女の面影を花子に重ねた。
(?先生どこ見てるの?……今日はずっと一緒にいて下さいねっ)
(…ん、ああ)
自分で自分を変えるのは難しい事だと誰かが言ったが、自分にとって大切になり得る存在が出来た時、それが近くにいるだけで自分へ影響を及ぼし変えてしまうものである。
自分が変えられていく。
案外、悪くないものだと快晴の空を仰ぎ見た。
Fin...
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