■ 手を出されたくない。
彼女が三年になる頃には本当に鳳凰の態度はあからさまに一年の頃よりもおっぴろげになっていて山田はそれを今まで通りツンケンとあしらっていた。
俺もまた、教師と生徒との関係を続けていたある日、遠くの廊下から放課後のうちの教室に鳳凰が入って行くのが見え、嫌な予感しかせず俺は足早に後を追いかけた。
もうすぐ教室と言う所でその教室から飛び出してきた生徒とぶつかり、その顔を見れば花子だった。
馬鹿でも考えれば分かる。
「ああ、左右田先生。施錠ですか?」
その教室を後から出てきた飄々とした態度の鳳凰に苛立った。別に自分のものでもないのにまるで自分のものに手を出されたかのような怒涛が自分の中で巻き起こった。
「山田、何か…あったのか?」
こんな赤い顔を見られたくないと必死にもがいる山田の細い腕を強く握る。
誰も残っていない廊下が少し薄暗くなる。
「女子生徒の腕を掴んで何やってるんです?まさか…ねぇ?」
「だったらどうなんだ?」
「…花子に手を出さないで頂きたい」
「よくその口で言えたものだな、今の今まで放っていたくせに」
花子の腰を寄せて自分の横に置く。
「山田、真庭の所へ戻るか?」
答えは分かっていた、そう思う。けれどそう問いたかったお前の口から答えを聞きたかった。
やはりお前は首を横に振る。
「……だそうだ」
そう鳳凰を鼻では笑って見たものの山田のその顔は明らかに嫌いだからと言う理由ではなく、ただ今は恥ずかしいからいけないという理由からだったと思った。
その顔に妙に焦る自分がいた。
このままでは山田があの男の元へ行ってしまうと思った。だからお前の手を強く握り過ぎたかもしれない。
腕を引いて、連れ去るように階段を降りた。
(もう卒業を待つ余裕などないとお前を準備室に連れ込んだ)
(お前の中にはあいつへの気持ちが明らかに芽吹いていた、渡したくない、俺のものにしたい)
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