■ 好きだった。
その次の日からその少女を目で追っていた。どのクラスに所属しているのかなんて気にするようになればすぐに分かった。生徒同士では仲良くしているようだし、男子生徒からの人気もあるようだった。
そして昼休み、飲み物を買いに行こうと自販機へ行く途中の窓から山田の姿が見えた。上級生に囲まれているようだった。
これが、悩んでいた事か…。
きょろきょろと真庭鳳凰の姿を探してみれば自販機の前で生徒に囲まれていて随分楽しそうに笑っている。気づいていないのか?
俺はなにも言わずに自販機でお茶を買い職員室へ戻る。
それから直ぐにあの二人が仲が良くない事が分かった。否、何故かあの山田の方から嫌いだと言っていた。教室の前で二人の話を立ち聞きしている自分に少し戸惑ったが、止める事ができなかった。
色々事情が分かった俺は放課後に山田を生徒指導室へ呼び出した。ツンとした話し方からして本当に気づいていないみたいだなとおかしくなった。
俺も教師として山田に接した。
悩んでいる事をどうしたら解決させてやれるだろうと考えた結果を話せば、目を見開いて驚き、ボロボロと溜め込んでいたであろう涙を溢した。そしてあの頃のような笑顔を浮かべて笑う。
「ありがとう!左右田先生!」
この教室が夕焼けに染まっていて良かったと思った。
その次の日、呼び出された山田を校舎の上の窓から見ていれば結果は成功に終わったようで俺に気づいた山田が晴れ晴れした顔を此方へ向ける。
一瞬どきりとした心臓を落ちつかせて「良かったなと」口を動かし次の授業へ向かった。
その頃から山田は積極的に俺に話し掛けて来るようになった。それは他の生徒とは違う好意である事は彼女が二年に上がる頃に気づいた。好きだと冗談で言われたのだと思っていれば本気だと怒る。
「教師と生徒だろう、馬鹿を言うな」
こんな所で照れたら他の生徒や先生方から何と言われるか分からない。本当は嬉しかった、と思う。あの頃の少女にもう一度好きと言ってもらえたから?不正、俺が既に山田の事を生徒以上に意識していたからだ。
「ほら、授業が始まるぞ……」
とは言いながらも内心ではいつまで自身の感情を曝け出す事を我慢できるかこれでは分からないと焦っていた。
その好意が日常的になっていたある日、真庭鳳凰からの突っかかりが激しくなった。
「花子に随分と懐かれているみたいで」
「生徒に手出したら駄目ですよ」
「ちょ、今なに話していたんですか?」
「な、何したんですか…左右田先生…我にはあんな笑顔向けてくれないのに」
明らかに嫉妬が見え隠れしていた、昔のままでそこは変わらないのかと思ったが、今更何を言っている貴様が彼女にどんな思いをさせていたのか分かってもいないくせに、どろどろした感情が目の前の男に湧いてくる。
「お前が放って置いたからじゃないのか?学校では手を出さないが…卒業したら俺が貰う、馬鹿なお兄ちゃんだな、滑稽だ」
その言葉でやっと俺が昔会った事のある迷子の少女だと気づいている事に気づいたのだろう鳳凰が奥歯を噛み締めたのが分かった。
そう告げた日から他の生徒の接触もそこそこに山田へちょっかいを出している鳳凰を見る事になった。
「名前で呼ばないでってば!」
「左右田先生と随分と態度が違うじゃないか、まったく寂しいな、昔はお兄ちゃん子だったのに」
………これがエスカレートしなければ良いのだが…。
ムカムカする自身の胸の内を宥めながらその二人の姿を横目で見ながら廊下を歩いた。
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