■ 幼い頃のお話。



その日はたまたま生徒会の集まりもなく学校が早く終わったこともあり帰宅途中にある公園で少し今日の復習でもするかと思い、公園を訪れた。
噴水が流れ木々が風にそよそよとなびきなんて景観が良く静かな所だろうと前に訪れた時に感心したものだが…今日は少し面倒な事になりそうだ。

「ふぇぇぇ…うわあああ」

…子供が泣いている。
俺は子供が苦手だ、あまり近寄りたくないし関わりたくもない。よって無視を決め込もうと目の前に参考書を出し読みながら目の前を通り過ぎようと試みる。

−−ぎゅう…

「うわあああ、お母さぁん…お兄ちゃあん、うわあああん!!」

ブレザーの裾を掴まれている。なんて子供だ。*イメージ画像

「うわあああ!!」

「不解、どうすればいいのだ…」

冷や汗を垂らしながらも俺は参考書を閉じて鞄の中へしまい頭を捻る。子供が一人でいる筈がない、きっと今頃親が探しているだろう、少しここで待つくらいなら…まぁいいか。

「泣くな、もうすぐ会える」

「う、うぇ…ほ、ほんとう?」

とりあえずは泣き止ませなくてはな。

「ほら鼻をかめ」

「−ぢーんッ!!お兄ちゃん優しいね」

「……泣かれるとどうして良いか分からんからな」

さて、どうする俺。確か今日、姫様から頂いたお菓子があったはず…ごそごそと鞄の中からポッキーを出し子供へ与えた。さっきまで泣いていたとはおもえない喜びようにいささか心配になる。変態にお菓子でつられそうな子供だな、大丈夫か?

「…名前は?」

「花子!花子だよお!」

名前まで教えてしまうのかまったく…

「いいか、知らない人からお菓子を貰っても着いて行くな。それと何を聞かれても答えちゃ駄目だ。分かったか……なんだ?」

「…お兄ちゃんは優しいし悪い人じゃないから大丈夫だよ。それに格好良いもん!」

「なっ……」生まれて初めて言われた言葉に顔が一気に赤くなる。な、何故こんな子供に言われたくらいで照れなければならん、子供だぞ。かちゃりと眼鏡を上げてちらりと見ればムシャムシャと美味しそうにポッキーを頬張る姿にくすりと笑ってしまう。

「ほら、食べカスが付いてる」

「え?どこどこ?」

「ここだ」

口の端に付いたカスを取っていれば公園の入口から走って此方に来る者がいる…あれは、うちの制服か?

「あれは…真庭鳳凰」

「あー!お兄ちゃーん!」

え?横にいる子供は大きく手を振っている。だとするとお兄ちゃんと言うのはあの男の事か?いつも体育の授業でも本気で走った所を見た事がないその男が常に全力疾走して探していたようで汗だくだ。

「…っこんな所に居たのか花子…はぁっ、早く帰ろうお母さんが心配してるぞ」

汗を拭う姿を見るのも初めてだ。

「お前のそんな姿を見るとはな」

「…まぁ今回は花子がいる手前なにも言うまい、相手をしてくれたみたいで感謝する。ありがとう」

「……別に」

「お兄ちゃんありがとう!また遊んでね!」

「だーめ、浮気か花子?お兄ちゃんが遊んであげるから帰ろう」

何か違和感を覚えるその姿に眉を寄せる。
ばいばーいといつまでも手を振るその子供に手を振り返せば笑顔で手が引きちぎれんばかりに手を振り続けるその姿に自分の頬に緩むのが分かった。

「……子供も可愛いもんだな」

なんて呟き、かちゃりと眼鏡を上げて空を見た。この青い青い空、どこまで続くのか。その時はまだあの小さな子供に自身の心が締め付け苦しめ、そして恋い焦がれていく事をまだ知らないのでしょう。



(お兄ちゃん!あのお兄ちゃん凄く優しかったの、それでねそれでね格好良いしね大好きなの!でもお兄ちゃんも好きだよ?)

(ゆ、許さぬぞ…"副"会長の分際であの根暗眼鏡がぁ…)
(感想ぶちまける。)

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