■ フリリク 肯定姫さんへ。
「ん?山田か…今日の任務はそれ程大変ではなかった筈だが」
「……………」
「どうかしたのか?」
「…っい、いえ…少し気分が悪くて」
私はここへ帰還する前の事を思い返し額を抑えた。ああ、頭が痛い。任務を終わらせた帰り道にふとこの先の甘味屋が美味しいとの噂を聞いたのを思い出し、そうだ数本団子を買って帰り左右田さんと一緒に食べようと思い立ち寄ったのがまずかった。
そんな事しなければ良かったのかもしれない。
「店主、団子をんーと…5本頼む」
視線を感じる、団子を買いに来てもやはり職業病なのか普通の者には分からぬであろうその絡みつくような視線の方向をジロリと見れば赤い忍装束を纏った男がにこりと笑った。
ぬかった…
ここへ入ってくる時には浮かれていて気づかなかった。あんな派手な服装なぜ気づかなかったのだろう。そうだ、きっとあの男も決して気配を消そうとしていた訳でもなくただ一般の客として甘味を食べに来ているのだから違和感が無かったのだ、そうだそうだと冷や汗をたらしながら自分へと言い聞かせる。
「やぁ、そこのお嬢さん」
「な、何か?」
「我とご一緒にお茶でも如何かな?」
……こ、これはなんだ。どう解釈すればいいのだ。ただのナンパか、いやいやお茶と言うのは忍同士で少し話、拷問か?拷問され忍の情報をすべて吐き出させようと言うのか。この男のヘラヘラ加減、どうとったらよいのだ!
「とても我好みで可愛らしいお嬢さんだなと思い、ただのナンパだ」
−−忍関係なく。
耳元で囁かれたその言葉にぶわあっと鳥肌がたった。そ、左右田さぁぁん!!心の中ではそう上司に助けを求めているが…今はその熱い顔を必死に隠しジロリとその男を睨んだ。
「ば!馬鹿か貴様はっ、私は城に遣える忍だぞそんな軽い事はしないっ!!」
「生意気な所もまた愛らしい」
よくそんな甘ったるい言葉を軽々と吐けたものだと思いながらも生まれて初めて言われる口説きと言うものに顔を赤く染める。
「さ!触るなッ!」
ふと頬に触れてきた手を避け、横腹に一発蹴りをお見舞いし団子も受け取らずこうして帰ってきたと言うわけだ。
「そうか、よく分かった」
顔を上げれば私の上司が何もなくて良かったと頭をポンポン叩くのでそこでようやく帰ってきたのだと安心し、一人ふにゃりと笑った。
悪い事は寝て忘れようと自身の部屋へ帰り床へ入る。あー、暖かい…今日は調査に出ていたっけ、それで…うーうん何にも無かった。明日はお休みだからお団子をまた買いに行って左右田さんにお届けしよう。ちゃんと変装せねばまたあの変態に会ってしまうから…なぁ…
「……すぅ…」
寝入るのにそう時間は掛からなかった。大好きな否定姫様と左右田さんがお花畑でいつものようなプレイをしているのを微笑ましく座って見ている夢。暖かい、ぽかぽかするわ。手をぎゅっと握られて…いい匂い、隣にいるのは、赤い、え?赤いあの忍?
パッと目を開ければ私の顔のすぐそこに今日甘味屋で会ったばかりの男の顔があった。
「起きたか。寝顔もとても可愛らしいな、理性を抑えるのがやっとだったぞ」
驚きすぎて声が出ない。口をぱくぱくさせながら頭の中のごちゃごちゃを整理する。
「ああ、言い忘れていたが我は真庭の里の真庭鳳凰だ」
「ぎ…」
「ん?どうしたのだ?」
「ぎぃやぁぁあああああ!!」
−−その時、否定姫の所に居た右衛門左衛門は直ぐ様に断りを入れそこを離れた。
「なんだそんな大きな声を出して、寝顔も可愛かったと褒めているだろうに」
「ひいぃ…」
頬を撫でる手に変な上擦った声が漏れる、なんだこいつはーー!何故ここに入ってこれた、ここには私の好きな仕掛け罠が幾つか仕掛けてあるし気配を消して部屋の中ならまだしもここは私の布団の中だぞ?し、忍としての私のプライドは見事にズタズタだ…
−−ばんっ!
「そこから出ろ真庭の…」
「左右田さんっ〜!!」
背の方の扉を勢いよく開けたのは我が上司の左右田さんで涙目でよく見れば少し息を切らしているあたり私の悲鳴を聞いて直ぐに来てくれたのだろう上司の優しさに胸を撫で下ろす、しかしぎゅうっと両手を拘束されて身動きがとれない。しかも布団に入ったまま向き合っているのはどうかと思う。
「やはりお主の上司というのはこの男であったか、答えは"イヤダ"だ」
ねー、とでも言うように私に微笑まないで欲しい。男とこんな至近距離なのは心臓に悪い、そ、それに可愛いとか、その…口説かれた相手だと余計意識してしまうじゃないかっ。
「山田そこを動くな。今直ぐその変態を抹殺してやる」
いつにもまして優しい上司には、はいっと返事をすれば溜息を吐いた変態は立ち上がり私に手を伸ばす。紳士なのか変態なのかよく分からない行動になぜか胸が忙しなく鳴った。
「それは…上司として言っているのかな左右田右衛門左衛門殿?」
「…なんの話だ」
立ち上がったものの拘束されるようにまだ腕を腰に回されている。私はそれが物凄く恥ずかしくて正面の上司の顔も見れずにそわそわ目を泳がせた。上から聞こえる甘い声、私は一体この男にどうされてしまったのだろう。凄いドキドキする。
「しかしもう渡せぬなぁ、もう我は花子殿を離せぬ。交際を認めて頂きたいのだが上司殿」
「不許、こいつはまだ半人前だ。恋に怠けている場合ではない」
「ほほう、では一人前になったあかつきには嫁に貰いに来ても良いと」
「そんな事は一言も言っていない」
話が先に行き過ぎている。そして腰から肩に回された手に力が篭って、変態の顔が私の直ぐそばに近づけられた。
上司をちらりと見れば今まで見た事ないようなただならぬオーラが漏れ出している。怖過ぎて直視出来ない。ひ、火花が見えるんですが…
「うむ、そうだな…花子殿はもう既に我を意識していると思うのだが」
「は?何を言っている、馬鹿か貴様は」
「そ!そんな事はありませんっ、左右田さん私は恋に怠けてなど…」
な、何を言うんだとキッと睨みつけるがそんな顔をしても可愛いだけだぞっと微笑まれぼんっと顔が爆発する。
「花子殿、恋とはその相手と近くにいるだけで胸が高鳴るものなのだよ」
「…え?」
それを言われては今までの私の行動を振り返るとこの男に心臓を忙しなくさせられてばかりだ…と言う事は。
「花子殿、我なら準備万端だぞ」
「ふざけるな、山田早くこっちへ来い」
左右田さんがこっちに手を伸ばしてくる。私はそれに答えたい。いつもの私なら迷わず彼の手を取ると思うのだが…誰かから聞いた事がある、恋は人をおかしくさせる…と。
「山田…?」
「そ、左右田さん…わ、私、その…あの…」
山田お前馬鹿な事を言うつもりではないだろうなと低い声で言われる。でも、でも、本当にそれが恋だと言うのなら…
「恋…してるみたいです」
左右田さんは口を開けたまま呆気に取られたように立ち尽くし横から「うむ!」とらんらんとした声が聞こえる。いきなり体が宙に浮いたので驚き近くの布を掴む。
「さて、どこへ行こうか」
私の部屋から飛び出したその人は私の体重などものともせずに抱っこしたまま木々を飛び移り、ふと何かを思い出したかのようにピタリと止まった。
「ふむ…」
私を地面におろし直ぐに姿を消し現れた姿は忍装束ではなく普段着ているであろう服で不覚にもぴかぴかと輝いて見える。恋は盲目とはこの事だろうか。「ほら、花子殿も着替えるのだ」とどこからか持ってきた煌びやかな着物を笑顔で貼り付けてくる。
「こんなの似合わない…」
「我が花子殿の為に選んだのだ、似合わない筈がない」
彼の笑顔は有無を言わせぬ効果があるようです。私は直ぐ様衣替えの術を行ない着替えた姿を見せる。ああ、彼はどんな顔をして迎えてくれるだろう、可愛いと言ってくれるだろうかと胸をまだ高鳴らせている私はもう忍ではなくこの人に心を囚われたただの人だ。
*イメージ画像
(ああやはり、とても可愛いぞ)
(う、うるさいっ!別に嬉しくなんかないんだからな!)
フリリクありがとうございました。肯定姫さんリクエスト、右衛門さんの部下の夢主ちゃんに恋した鳳凰様がストーカーしちゃうお話でございました(^ω^)少し長くなってしまいましたがいかがでしたでしょうか?夢主が左右田さんの部下とは妄想が膨らむお題を頂きましてとても楽しく書かせて頂きました。ツンデレな夢主ちゃんにぐいぐいとときめく事を少し愛情表現がいき過ぎた鳳凰さんに言いまくって欲しいな。鳳凰ヤンデレも可!
いつもありがとうございます!!これからもお願いします(>_<)!!…このイラストリクとかは受け付けているんでしょうか?ほ、欲しいな…(*_*)
[
prev /
next ]