■ フリリク 蒼乃様 久々知兵助
同じ生物委員会の竹谷から聞いた好みのタイプは真っ白で柔らかくて口溶けが滑らかな奴だと言う。最初の二つは分かるけど最後の柔らかくて口溶けが滑らかとはなんだ。や、やらしい意味にしかとれない。だけどあんな真顔で下ネタに走るとも思えない。
だって、あの久々知君だぞ!
「あー、くノ一教室の花子さんだー」
「また影から久々知先輩を見てるぜ」
「バレてないのが凄いよねえ」
うるさい、黙れ一年は組。
私は今、木の影から久々知くんを見ている。ああ、睫毛が長くてすらっとしていて本当素敵。近くにいるあのボサボサ頭まじ羨ましい。場所変えっこして欲しい。
「はーああ」
今日の観察はこれで終わり。今日も素敵だったわ。溜め息を吐きながら歩を進める。私と久々知くんの接点なんかないのかしら、話した事もないし目があった事もないのよね。
「あ、花子じゃねえか」
「ボサボサ野郎」
ひでえ呼び方と笑う生物委員会の竹谷を睨む。あ、そうだ接点といえばこいつ。
「久々知くん今日も素敵だった、本当お前羨ましい、お願いだから横代わって!」
「いいぞ」
え?土下座する勢いでお願いしてみたけどこんなにあっさりOKで返されるなんて、頭大丈夫かと熱を測ってみるがおかしい所はない。
「お前に頼みたい事があって来たんだよ。火薬委員が人手不足でよ、手伝ってくれって言われたんだけど俺も他の事で忙しくってさ」
お前暇だろ?と言われ少しムカついたけど、ここは大人しくこくこく首を縦に振って竹谷にお礼を述べた。
「ありがとう竹谷ああー!!ほんと、今度茶屋の代金奢るからっ!」
「あー、はいはい。とりあえず顔から出てるもん拭いてけよ」
当たり前じゃないかっ!るんるんっと火薬貯蔵庫へステップを踏む。その間に勿論 久々知くんが好みそうな自然な化粧を施しながら行くが緩む頬が止められない。
この学年になれば走りながらの化粧だってお手のものよ、だって皆シナ先生をお手本にしているんだもの。
蔵を開ければ事情をしているのか土井先生が待っていてああ!と声をあげる。
「こんにちわー」
あれ?久々知くんがいない。
「山田助かるよ、久々知一人じゃ少し大変だったんだ」
「全然っ大丈夫です、私で宜しければまた呼んで下さいっ!」
ありがとうと微笑んだ土井先生。そういえば一人って言った?久々知くん一人?え、じゃあ一緒に作業するって私が想像していた"後輩と一緒に作業していて花子さん次はあれをやってくれるかな"と苗字で呼ばれる事以上の試練が待ち受けているって事か、これは。
「あ、久々知。くノ一教室の山田が来たから後は二人で頼むな」
じゃあ、と手を振り倉庫から出ていく土井先生と代わりばんこに入ってきた久々知くんに心臓がバクバクしてきた。ほほほほ、本物だ。
「はい。山田さんだよね?竹谷から色々いつも聞かされてるから初めて会う気がしないのだ」
はい、苗字で呼ばれる突破。うわああ!と飛び跳ねたいけれどそこはグッと抑えよう変人だと思われる。た、竹谷様、ほんといつも弄ってごめんなさい。
「う、うん。何て聞いてるの?」
「怖い怪獣みたいな奴だって」
前言撤回、あいつ今度会ったら殺す。
「わ、私そんな怖くないよっ」
「あはは、本当だな。じゃあ作業しようか。今日はよろしくなのだ」
は、はいっとは可愛く言ってみたもののヤバイなこの状況ほんと近い。私が火薬の中身を確認して久々知くんが名簿を付けるのだけれど…
「どうしたのだ?」
「うぇあ!?な、何でもないよ!早くやらなきゃね、夕飯間に合わなくなっちゃうね」
いきなり声掛けられたからびっくりして変な声でた、くそー!!本当わたし馬鹿!
「ああ、今日は豆腐料理らしいからな。早く食べたいのだ」
そ、そうだ久々知くんは豆腐が大好きだったんだ。話題、話題。
「どこが好きなの?」
「全部だけど…白くて柔らかくて口溶けが滑らかな所とかかなあ」
「ああ、白くて柔らかくて…」
それって私が竹谷から聞いた好みのタイプそのものじゃないかあ!!竹谷貴様図りやがったな!!そっかぁーと返しながらも私は豆腐になりたいと必死で神様にお願いをしていた。
「山田さんは豆腐は好き?」
「好きっ!!」
ひぇっ、言ってしまった、勢いよく好きって、だけど豆腐の事を聞いていたしバレてないよね。
「うん、俺もなのだ」
近くで見ると睫毛が本当長いね、と私が今思った事を久々知くんはそのまま口にする。
「それに近くで見たら肌も白くて豆腐みたいだな」
「な、え、どどどうしたの?」
こちらを見ながらニコニコして私を褒めちぎるいる久々知くんに顔を赤くさせていれば実はねと言葉を続けた。
「前から山田さんが俺を好きで木の影からいつも覗いてるの知ってたんだ」
それは以前の事。
花子の久々知へのストーカーが始まった頃、それを五年全員が気味悪がっていた。特に三郎は俺がとっちめてやると言ったが八左ヱ門が委員会のやつなんだ頼むよと抑えてくれていた為に今の今までなにも事が起こらなかったのだ。
「八左ヱ門」
「へ、へ、兵助っ!」
俺は気になっていた事を切り出してみた。山田さんの事は以前からたまに知っていたけれど八左ヱ門と委員会で言い合っているところしか見なかったから。
「山田さんってどんな人?」
その時の八左ヱ門の驚いた顔ったらない。何故そんなに驚いたのかは分からないけれどはっちゃんは色々俺に教えてくれた。というか愚痴しか言っていなかったかもしれないけど。
もっと気になった俺は山田さんに会いたくなって前に生物委員会を見に行ったことがあるんだ。その時は山田さんが一人で世話をしていて。
「優しい笑顔が可愛い人じゃないか」
そう思った。
俺も君みたいにたまに見てたんだよ、知らなかった?と笑う彼に胸が高鳴る。
俺もいざとなったら話しかけるのが恥ずかしくなって、こうして八左ヱ門に機会をお願いしたんだ。
「……〜!!」
初めてそれを知った私は顔から火が出るほど
熱くて死にそうだった。手で顔を隠しながらもその隙間から久々知くんを見れば微かに久々知くんも顔を染めているみたいだった。
「俺も君が好きだよ」
何もかも見透かされていたなんて忍としてとても恥ずかしいけれどそれどころじゃない。掴まれた手の暖かさが直に伝わってきて私を殺そうとしている。
その時、がたがたがたんっ!と扉から何人かが倒れ落ちてきた。あれは久々知くんのお仲間。
「へ、兵助っ!ほんとなのか!?」
「まぁまぁ勘右衛門、二人にしといてあげようよ」
「まさか兵助もストーカーしていたとはな」
「三郎、恋は盲目とか言うだろ」
これから私はどうなるのだろう。
横で笑う久々知くんにぎゅうっとまだ握られた手を頑張って握り返して見た。
(この豆腐料理美味しいのだっ!)
(わ、私のもあげるっ!)
あとがき
蒼乃様へ、フリリクありがとうございます。いかがでしたでしょうか?考えてみれば落乱の短編は初めてになります、慣れていない所為か長くなってしまいましたすみません!以前から長編を見て下さってありがとうございます。蒼乃様が好きな兵助くんが書けたか分かりませんがまた是非、このサイトに遊びに来てくれたら嬉しいです。この度はありがとうございました。
管理人、ひまわり
2013.11.22
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