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▼ でれでれ。02

彼女は引っ越して来た日、近くの神社に足を運びました。ボロボロの錆びれた神社。
台座には狐も何も座っては居ない。誰かに盗まれてしまったのだろうか。

私は賽銭箱にお金を入れて、ぱんぱんと両手を合わせた。

人の気配がして何故だか体が勝手に隠れてしまった。なんで、隠れちゃったんだろう、逆に気まずいじゃないか。

しかし、入って来たのは犬二匹。
なんだと安心して出て行こうとしたが足がピタリと止まる。


「おい、ニコ坊。今日は散々だったなぁ、一銭も入ってねえぜ」

「ほんとやねぇ〜」

犬が…喋った!しかも、台座に飛び乗ったと思ったら石像になってしまったではないか。


その後、私は一人公園のベンチに座り惚けて居たのだが、まったりまったり歩く幼児に話し掛けられたのだ。

「そこのかわゆいお嬢さん、どうしたのじゃ」

マセた子供だなー、こんな服来ちゃってきっと裕福な家庭の子なんだろうな。

「いや、あのね。犬が喋った、なんて言ったら信じる?」

信じないよね〜、幾らなんでもごめんね変な事言って!と笑っていたらピンクの棒で口を隠し、おっほっほと雅に笑う子供。

「ほれっ、電ボ!」

「な、なんでございましょうか〜、おじゃる様ぁぁ」

いきなり飛び出てきた虫は帽子の中で寝ていたのかクタクタだ。

「虫も喋った、この町は動物も言葉を話すの?他には?他には?」

「おっほっほ、まろとデェトすれば色々と教えてやるがの」






そうなんだ、この月光町では生き物が話す事は別のことなのだ。カタツムリもカメも話していたし、それは置いておいて、引っ越してからというものあの狛犬達を良く見かけるのだ。

バイト先の前も通り過ぎるし、神社が家の近所だというのもあると思うが。





「ニコ坊、車に気をつけるんだぞ!壁の方を歩け、壁の方を!」

「はい〜、兄さん」

あの青い方がお兄ちゃんなのね。弟想いの良いお兄ちゃんじゃない。




「今日も満願神社の再建の為に賽銭集めだ!気合い入れていくぞ!」

「兄さん、そんな恐い顔しはったら皆逃げてしまうてぇ、笑顔笑顔っ」

ふふっ、最初見た時とあんまり変わらない顔だけど。ピンクのも可愛いなあ。何故、京都弁なのかが気になるところだが。





「あ!兄さんっ、貧ちゃん神さんがぁ〜!」

「なっ、なにぃ!?大丈夫か!ちょっと見せてみろっ!!」

うわ、男気ある。頼れる兄貴だわ。





「お、今日は小っちゃいもの倶楽部の会合だな」

「兄さん、いつも大変やなぁ」

リーダーシップもあるのね。





それからと言うもの、会っては盗み見る、そんな毎日が続いていた。

「花子ちゃん、どうしたんだ?こんな所で突っ立って!」

「あ、ケンさん」

振り返ると満面の笑みでケンさんが立っていて、ああ満願神社の犬達じゃねぇか!と指差した。

「名前って、なんて言うか知ってます?」

「確かおじゃる丸の虫が言ってたのを聞いたなぁ、二コリン坊とオコリン坊だったかな」

「オコリン坊…さん」

ふと見ると見えるのはもう遠くに歩いて行ってしまった後ろ姿と賽銭箱。その姿にトクントクンと胸が高鳴った。


「ん?どした?顔が赤いぜ、風邪かぁ?そりゃあいけねぇ、花子ちゃん家まで送ってってやんぜ!」

よっ!と何故だか肩に担がれ家まで帰宅した。アパートまで分からないくせにいきなり担がないで欲しい。そして、お腹に肩が食い込んで痛かった。




「オコリン坊さん…」

仕事中もその満願神社の狛犬さんの事を考えてしまう。花の茎を全部切ってしまい店長に怒られ謝る、もうこの作業を何度繰り返したか。

「はぁ、今日はすみませんでした。気持ち入れ替えて来ますのでまた明日もよろしくお願いします」



店長には溜息をつかれてしまったが"今日は良いけど、本当頼むよ、花子ちゃん目当てのお客さんも多いんだから"とお許しを貰った。しかし、好かれるのは嬉しいがここで買ったお花を貰うのは正直困る。切花や鉢を持って帰る毎日でここ数日で部屋は花でいっぱいだ。

とぼとぼ歩いていると満願神社の前、すすっと覗くと錆びれた神社の大きな賽銭箱のまえで狛犬さん達がたむろっていた。

背中を向けて、わーきゃー言っている姿をうっとり見つめる。格好いいなぁ。

「神社の再建…」

ガサゴソと財布を確認し、丁度あった500円玉を取り出した。

そろりと気づかれないように後ろから背中の賽銭箱にちゃりんと入れた。げっ!!ニコリン坊くんがこっちを向いている!

((しー!!))

少し小首をこてっと傾け、何も無かった素ぶりで話を続けてくれた。早々と入口の影に隠れる。ニコリン坊くんが此方を向いた時に私はお礼の素ぶりをして神社を後にした。

気分はるんるんだ。

次の日も、次の日も私は自分の500円玉貯金箱を持ちだし、その中から賽銭箱に一枚居れた。

そして一週間が過ぎた時、仕事場でお花にお水をあげていると声を掛けられた。ニコリン坊くんに。

「は、はじめまして、僕、ニコリン坊と申します。いつもお賽銭に500円玉入れはっている方ですよね?」

そりゃあ、いつもニコリン坊くんは気付いているから不思議に思うのは当たり前だろう。

私はずいっとニコリン坊くんに顔を近寄せ、お願い!と両手を合わせた。

「言わないで欲しいの」

え?え?と首を傾げる。

「恥ずかしいの会って話すのが、その、すすす好きになっちゃってっ」

あはっと頬を両手で押さえ、ニコリン坊くんを見ると固まってしまっている。

「あああああにさんを、好き?」

それは外見的な意味で?それとも…と言葉を濁らせる。

「もちろん性格よ、恋してしまったの。あなたのお兄さんに」

人間の私なんかが厚かましいわよねっ!ごめんなさいっ狛犬って言ったら護り神なのにっと慌てて側にあった植木鉢で顔を隠す。恥ずかしい!

「そんな事あらしまへん!兄さんの事を好き言うてくれて僕、嬉しいわぁ」

少し話した後、花子ちゃん、いつもありがとう。と言い兄さんが心配するといけないからと帰って行った。


それからもオコリン坊さん達に会うたび賽銭箱に見つけたら入れて、見つけたら入れてを繰り返した。

商店街の人達からは不思議に思われたし、おじゃる丸くんにも変だと言われたけど別に良いのだ。

「いーの、私はオコリン坊さんが大好きなんだから」







01の最後に戻る。

「つっ、ついてくるな〜!!」




俺はあの人間の女から逃げて来て満願神社に帰ってきた。台座に座るニコ坊にどうなってんだ!?と声を荒げれば笑いやがる。
説明しろっと言えば、慌てながらも全て洗いざらい吐いた、主に上記の事をだ。俺は神社をからまた走り出した。

あの女が何処にいるかなんて知らねぇ!でも、言わなきゃいけねぇ事があんだよ。

ふと、花の香りが鼻を掠めた。公園だ。

「さ、さっきは逃げてすまなかった」

俯きブランコをぎぃこら漕ぐ、子供のような女に近寄る。その女は直ぐに驚いた顔を上げた。

「お前、おおおお俺が好きなんだって、本気なのか!?狛犬だぞ!?」

「本気です…この町に来て直ぐからずっと好きでした…」

うう、くそっ!何て言ったら良いか分からねえ、俺は頬を染めるその女に俺はまだあんたの事は何にも知らねぇがと続けた。

「俺に黙って賽銭箱に金を入れるな!それと…お前の事は別に嫌いじゃねぇ」

「オコリン坊さん…」

「色々…教えてくれ…その、お前の事」


その瞬間、抱きしめて来やがった女の腕の中でジタバタ暴れまわる。

「はい!好きですっ大好きですっ」

うぎゃぁぁぁっと声を上げはしたが俺はそんなにこの花の匂いと柔らかいその腕の中は嫌いじゃなかった。


それからと言うもの、毎日神社に来てはバイト先で貰ったのだと花を植えて帰る。今となってはその成果もあって錆びれた神社は色とりどりの花で埋れてなんだか変な感じだ。名前は花子、俺の事が好きだと言いやがる変な女だ。


「私、決めました。お金を貯めて、この神社の神主になります。そしたら、毎日一緒に居られますね!でへへへ」

わーい、わーいと喜ぶニコ坊の横で俺は顔を真っ赤にして何も言わずに顔を背けたが、貧乏神にまで馬鹿にされてしまう始末。



ふよふよふよ。

「嬉しいのがバレバレですよ、これが正しく世間で言うツンデレという奴ですね、ふふふ」





−あとがき−

ずっと書きたかったおじゃる丸のオコリン坊。可愛い、可愛いよお。あんな顔して何にも怖くないし、むしろ優しいんですよね。大好きで大好きで仕方なかったんです。満願神社's最高!!しかし、貧ちゃんがいる満願神社をどう立て直していくのだろう、主人公ちゃんは(笑)

ここまで、お付き合いありがとうございました。

(感想ぶちまける。)


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