■ ゆめゆめに…。

あれ、あそこに立ってるの白兵くん?雪が酷くてよく見えない…でも、あの白いふわふわな髪に腰に刺した刀、あれは紛れもなく錆白兵だ。

だんだんと視界が近くなる。久しぶりに見た白兵くんの姿に涙腺が緩む。白兵くん、白兵くん…ああ、わたしまだこんなに…。だけど久しぶりに見た白兵くんはどこか痩せた感じがした。それに伏せた目が少し刹那気で、とてもわたしには気づいてくれそうにない。もともと私の夢だし姿なんて存在しないのだろうけど…。

微かだけど声が、聞こえてくる。

……花子殿…元気で……だ…うか

ちょ、微か過ぎてあんまり聴こえない。
でも白兵くん、私の事、喋ってる?

「!?」

白兵くんが伏せていた顔を上げた。目があった気がするけど、そんなわけがなかった…白兵くんはただぼんやりと私を通り過ぎた空を見つめていた。

「白兵くん、わた…わたしね、あのね?」

…どうか幸せに

「っ…!」

その言葉に息が詰まる。なんで、そんな顔でそんな事言うの…視界が歪む、白兵くんが遠ざかっていく。

いやだ、やだ、行かないで、なんで?
そんな顔、誰が見たって…


「……っ!?」

手を伸ばした先には目をパチクリと開けた七花くんがわたしを覗き込んでいた。息苦しい、冷や汗が額を伝う。
変な夢を見ていた。

「花子さん、大丈夫かよ」

ゆっくりと息を吐けば、だいぶ楽になった。

「…ごめん、平気」

なんなんだろ、なんで今更こんな夢見るんだろ。喉がカラカラで気持ちが悪い。
とりあえず、わたしの上にまたがっている七花くんを退かしてベットから起き上がると洗面台へと向かった。なんだかフラフラする、嫌な夢を見たな。

コップ一杯の常温の水を飲み干してホッと息を吐く。

「どうしたの?七花くん」

洗面所の扉から隠れているようで隠れていない七花君が此方の様子を伺っていたのでなぁに?っと振り向けば眉を寄せ言いずらそうに口をひらいた。

「そんな白兵って奴のこと好きなのか?」

名前、呼んでたからと呟く大きな身体は少し縮こまり小さく見える。心配させていたのだと思い申し訳なくも思った。この世界に閉じ込められていて一番不安で寂しいのは君なのにね…。

「ごめんね、変な夢見ちゃって」

「そうじゃなくてさ…」

「うん?」

「好き…なのか?」

どうしたものか、口が塞がらない。なぜならば洗面台の小さな電気でさえも分かるほどに彼が赤くなっていたから。

「ちょ、おいっ黙るなよ…」

私もそんなに鈍感じゃない。なぜ七花くんがそんな風になったのかしっかりと理解しているつもりだ。

「好き…だよ」

「!………そっか」

「いつ帰るか分からない人に恋をするなんてこんな残酷な事ないよ。大丈夫だよ。君は帰ったらきっと素敵な恋をする。これは…女の勘!」

悲しそうに眉を下げなんだそれっと苦笑する。大丈夫、女の勘だなんて嘘だから。君は本当に素敵な恋をする。いろんな感情を彼女に教わりながら旅をして、その恋に出会うんだよ。

「だからね、幸せになる為に帰るの」

「…泣き虫だな、あんた」

この言葉は彼だけに言ったものじゃないから、その言葉に気づいたわたしは涙を流した。


(comment*☆.)


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