■ 自分、不器用ですから。
「いらない服ある?違う違う、え?彼氏?違うってば、そ、少し事情があってねー、うんうん」
電話中、鳳凰さんの様子がおかしい。じーっと此方の様子をうかがっている。
「はいー、じゃあ今から取り行くから」
先ほどから視線で穴があきそうだ。
カラクリがそんなに珍しいのかな?レンジや掃除機は直ぐに対応したのに。
携帯から顔を話し続けられた言葉には悪意はないのであろう、ないのだろうけども…
「ついに頭がおかしくなったか?」
「あはは、死ね」
うん、ちゃんとその後謝ったよ、だってさお前が先に死んでみるか?なんてあんな笑顔で言われたら怖いよね、怖い。言っても本物の忍者なのだから私を殺すなんて簡単だろう、私たちが虫を殺すのと同じように。
むしろ、私はこの人たちにとってはモブなのだ。ただの。
「花子、我は風呂に入るぞ…花子?」
「……………」
「はぁ…まったく」
「………!?」
私はその時、考え事をしていて声に気が付かなかった。頭をぐりぐり撫ぜる鳳凰は荒く、わたしが想像していた鳳凰様の手ではなかった。
なんだこの人、こんな優しい顔も出来るんじゃないか。
「故に早く風呂の準備をしろ」
前言撤回する。
「はいはい、風呂のお湯張ったらちょっと出掛けて来ますんでお留守番頼みますよ」
「出掛ける?別に良いが」
我に任せても良いのかとふふんと笑う鳳凰、もう慣れたがなんか腹立つ。
「ええ、なんかしたら私ここから直ぐに引っ越しますんで次の部屋の人と仲良くして下さいね」
あー、むさっ苦しいおじさんかもしれないですねぇと風呂場に湯を張りに行く。
ゴシゴシゴシゴシ。
風呂を洗っているとドアが開く、ヒヨコのマークの鳳凰様だ。
「どうしたんですか?」
別にと、バツが悪そうに顔を背ける。なんだよ、見られてるとやりづらいんだけどな。私はシャワーで湯船の泡を流す。
「お湯かかりますよ」
「うむ……」
ガチャリとドアを閉めて流し、お湯を湯船に入れる。ふうと一息吐き、ドアを開ける。え?まだいた。どうしたのと聞けば別にと返されるから私は横を通り過ぎリビングのソファの上で携帯をいじる。
「花子」
「だからさっきからなんなんですか!」
「…………留守は任せろ」
ああ、これが言いたかったのか。不器用過ぎて笑いそうになったけどそれを飲み込む。笑ったら何をされるか分からない。
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
「ねずみ一匹も通さぬわ」
本当に人が来たら殺しそうだな、私は家を出る前に人が来ても玄関は開けなくていいと何度も説明した。
帰ってきたら殺人現場になっていませんように。
[
prev /
next ]