■ 躾@、鎖骨をぐりぐりしない。
七花くんはそれはもうランランと上機嫌で少しピチピチになる衣類を身につけている。まぁ出かける時は大きめのパーカーを着てもらえばなんとかなるだろう。
部屋の色々な物を物色し始めた七花くんは昨日は良く眠れたみたいだ。それは良いんだけど朝お腹が空いたからって起こしにくるのは止めてもらいたい。空が薄暗くてカラスが鳴く中で私はうとうと味噌汁を作ったのだ。泣きたい。
「花子!」
「うん、似合ってる似合ってる」
まぁ、目を輝かせる子供のように素直な七花くんは嫌いじゃないし、TVで観ていた無機質で冷め切った感じでもないからまだ良いか。
喋り方はあの淡々としたものだったけど、彼が興味がある事を教えてあげたりその事について話せばやはり気分は高揚していった。それがまた人間らしく微笑ましい。
「ん、なに?どしたの?」
「久しぶりに姉ちゃん以外と話したなぁと思ってさ」
楽しいもんだなと七花くんは笑う。なんかジンときちゃった、そだよね、島流しにあってたんだもんね、二人きりで過ごしてたんだもんね。
「うわ、なんで泣いてんの」
「そのドン引きするわーって顏やめて」
やっぱり七花くんは鑢七花だった。
ところで物語はどこまで進んでいるんだろう。あちらの世界の事が気になった私は何気なく話を切り出した。
「七花くんてここに来る前って何してたの?」
「えーっと…確か蒔拾いしてたな」
蒔拾いかならまだ話が始まってもいない筈、少し安堵した。皆がまだ刀を所持している事になるしまだ"生きている"。七花くんは人を殺す事に躊躇いなんかなかったし、だけど人と出逢い感情が増えるに連れて殺すことに戸惑いを覚えた。確か迷彩さんを殺した直後に虚しさを感じたんだっけ…。
「ん?」
「…んー、なんでもないよ。ただの考え事」
そう苦笑いすれば、いきなり立ち上がった七花くんが私の両肩を掴んだ。いきなりのことに圧倒されていればずいっと顔が近づいて来る。
「何かあるなら言ってくれ、俺あんたには世話になってんだ。力には自信あるし、言ってくれればそれなりに…」
ーぐりっ…
「っひゃう!?」
彼の親指が鎖骨にクリーンヒットする。ああ、これって原作にあったやつじゃないか。七花くんは「え?」って私の変な声に驚いているし私は羞恥で顔が赤くなる。やん!って言わなくて良かった、可愛子ぶっちゃわなくて良かった、あれはとがめがヤンヤン言うから可愛いのであって私が言ったら良い笑い者だ。
ーぐり…
「ひっ、ちょっと!なに楽しくなってきてんの肩から手離して、っひゃうん!」
「ひゃうん?花子、面白い反応するんだな」
ーぐりぐりぐり…
ここは鎖骨やばい鎖骨よわい、やめてやめてと懇願するべきだろうか。
あろう事か七花くんめ面白がって鎖骨攻めを始めやがった。原作通りだこの野郎。いつか言ってたじゃん、変な扉が開きそうなんだけどって。確かマッサージの時だったか?まだ思春期を迎えてないこの幼い巨人に変な扉を開けさせてはならない。
「………っ……っぅ……」
変な声が出るのを必死に耐える。
「花子、なんか変な扉が…」
ードターン!!
その言葉を最後まで言わせまいと私は渾身の蹴りを彼の顔に喰らわした。七花くんは私の足を顔にめり込ませ、後ろにゆっくりと倒れていった。
わたしは謝らない。
何故ならこの巨人が悪いからだ。
顔を抑えているわりには全然痛くなさそうだ。人間の鍛えられない部位を突いた筈なのに、あっ私の力が弱いだけか。まぁ、そんな事はどうでもいい。もう新たなとびらを開かさない為にもこのトトロよりも身長がある怪物くんを躾ける必要がある。
(〜七花、おすわり!!)
(えー、なんで?)
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