■ 妖精あらわる。
「あんたさ、泣いてんの?」
そんな間伸びした声が聞こえてくる。まだ私は洗面所で投げ捨てた歯ブラシを横目に涙していたのだけど、その様子を見られていたみたいだ。もう、タイミングが悪すぎるし、本当性格悪すぎるよ神様。なんでこのタイミングでしかもこいつを出して来るんだ。
「七花くん…」
「なんで俺の名前知ってんだ?」
ずびっと鼻を啜って名前を言えばでかい図体に似合わず首を傾げている。細かい事はやっぱり気にしないタイプなのだろうか、まぁいーやなどと言ってもう近場の布で私の頬を拭っている。優しいんだけど、それ雑巾なんだよね…。
「ていうかここどこ?さっきまで姉ちゃんと家に居た筈なんだけど」
あれ?あれ?とまた悩み出した。
もう、こうなったら最後まで面倒みるしかないじゃないか。神様の馬鹿。
「…こっち来て」
「わ、ちょ…おいおいっ」
暗い廊下をリビングに向かって進む。電気を付ければやはりこの現代の暮らしに驚き目をまん丸くしていた。
「すっげ、なんだこりゃ…」
なんじゃこりゃあと言いたいのはこちらである。すっごい身長高い、こりゃ色んな所に頭をぶつけそうだなと思っていたら見下ろされた。
「君のいた時代ではないでしょ?」
「…なんか実感わかねぇけど、ここが元いた時代じゃないって事は良く分かった」
「うん。でもね、すぐ帰れるよ。君の時代からは沢山の人が現れては帰っているからさ」
その事実に少し安心したみたいで、切羽詰まった表情に少し明かりが戻ったみたいだった。
私はソファに座るのを勧めれば少し躊躇ったものの座ってくれた。座高も高いわ…。
「ということで、布団持って来るから今日からこの部屋で寝てね」
私がさも当たり前かのようにそう口にすると「えっ!?」と口を開けて固まった。どうしたのだろう、なんか大切な用事でも思い出したのだろうか。確かにお姉さん絡みだったら殺されそうだ。
「…ここに住まわせてくれんのか?」
「え、あ…うん、やだった?」
慣れていたものだから勝手に進み過ぎちゃったかなと頬を掻きながら言えば「あんたが当然のように言ったから驚いただけ」としょんぼり頭を下げた。なんだこの可愛い巨人は。
「ありがとう」
うつむいたままそう呟くものだから私は堪らずわしゃわしゃと彼の少し痛んだ髪を掻き混ぜた。なんだ、感情に疎い子かと思っていたのに意外と寂しがってるじゃないか。きっとお姉さんと別れてしまった事が寂しいんだな、もう可愛いなぁ。
−ぐぎゅるるるる〜
「え?」
「…腹減った」
なんだ、うつむいていたのはお腹が減ってたからなのね。やっぱりそうか。私は遠い目をして微笑んだ。
「夜食作ってあげるね」
(この巨人が最後なら私がしなきゃならない事はただ一つ…躾だ)
(花子さん、おかわり。どうしたんだ?拳握りしめて)
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