■ 簡単だ。
神様もう私に意地悪しないでください。なんで婚期ギリギリのこんな女のところにこんな爆弾落としてってんですか。私なんかしましたか?毎日せかせか仕事頑張って、そりゃあ息抜きにお酒飲んで迷惑かける事もあったけどそれぐらいでこんな仕打ちは酷すぎやしませんか。
「ほんと、ばかぁ〜….」
このか細い反抗の声は届いているのだろうか。届いているのだとしたらきっとこの状況を作り出した神様なら嘲笑っている事だろう。
もう、何度も脳内でシュミレーションしていたから大丈夫。白兵くんがいなくなるなんて最初から分かってた事だし、寂しくなったらアニメを見ればいいよ。三話に喋りありででてるし、ちょびっとだけだけど。
ソファーでいつものように録画したドラマを付ける。あーこれ、最終回なんだ。白兵くんが楽しみに推理してたんだっけな、犯人は…え!?高田!?真島が犯人じゃないの?あんなに誠実ぶっといてこいつかよー。
「高田が犯人だって白兵く…ん…そうだ、居ないんだっけ」
テレビにのめり込みすぎてついいつもの様に名前を呼んでしまった。
テレビを消してソファーで携帯を弄る、やる事もなくただボケーッと携帯画面を眺めていれば気づいた時には部屋の中は暗くなっていて、ぐうっとお腹がなった。
「お腹、すいた…」
キッチンに向かえば綺麗に整頓された調理用具に調味料。なに作ろうかな。冷蔵庫には食材がたっぷり残っていたけど一人分の料理なんて作るの怠いなと思ってやっぱり冷蔵庫を閉めた。
戸棚から禁止されていたカップラーメンを取り出して食べる。やっぱ一人だとこうなるよね…。
もう後はお風呂に入って寝るだけだよ、大丈夫。一日なんて直ぐに終わる。それに仕事が始まれば忙しくてそんなの考えている暇なんてないんだから。ぶくぶくぶくー、湯気が 浮かぶ湯面を見る。ほら!そうだ、この携帯ワンセグ付いてたから見れるよテレビ!なんだかんだで長湯をしてしまった、今日はゆっくり寝れそうだな。
「ハミガキしなきゃハミ…−あ」
目に入ったのはコップに立てかけられた二つの歯ブラシだった。ポタリと床に水滴が落ちる音がした。ポタリ、ポタリ…あ、これ私の涙だ、と理解したのは鼻を啜った時だった。ピンクとアオの歯ブラシ、歯磨き粉に慣れずに顔をしかめる白兵くん。
「白兵く…ん」
もう、ここにはいないんだ。
「白兵…く、っん」
あの笑顔も、あの温もりも全部全部全部。
全部、大好きだったのに。
「ぅっ、…ひっぐ…っ、うぅ」
涙が止まらない。
「も…や、だぁ…っ」
声を上げて泣く私はとても惨めでみっともない事だろう。でも、もう止まらなかったんだ。テレビを付けても、タオルに顔を埋めても、顔を洗っても止まらなかったから。
私は歯ブラシを手に取り、近くのゴミ箱に投げ捨てた。
−−−カシャン!!
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