■ 星空の下のお話、そして。
「今日はよく星が見えるとニュースで言っていたでござる、花子殿」
そう言った白兵くんはソワソワしていて何か落ち着かない様子だった。外に出れば満点の星空で、普段まったくと言っていいほど見なかった空を久しぶりに見た気がする。都会でもこんなに星が見えることってあるんだなぁ、と白い息を出した。
「暖かい格好して少し遠出しますか!」
部屋に戻り二人で服を着込み上着を羽織る。こんな夜に車で出かける事なんてめったにない。それに白兵くんは車が苦手だったからあまり車で出かける事はなかったなぁ、と寒さが理由ではないガタガタ震える白兵くんを見て苦笑する。
ついた所は夜景が見える絶景のスポットと言うやつで、目の前には星空と、住宅街の灯りが広がっていた。住宅街の灯りと言ってもポツポツ見えるから星と間違えてしまう程だ。
「綺麗だね、ゆっくり星を見たのなんか久しぶりだよ。あっ、でも白兵くんが居た時代の方がやっぱり綺麗なんでしょう?」
「街灯も無いでござるからなぁ」
「へぇ、見てみたいなぁ」
「……今日の星は拙者の居た時代と変わらないでござるよ」
「そっかぁ、そうなんだっ…なんか凄い嬉しい」
白兵くんの居た時代と変わらない星空を今わたしは見ているんだなぁ。そう思えばなんだか不思議な感じがして少し可笑しくなった。この世界と繋がっている訳でもないのになぁ。
ふふっと笑えば左手に白兵くんの暖かい手が重なった。ぎゅうっと握られた手を見てまた心がきゅんとした。
「ときめいた」
「ふふっ、先に言われてしまったでござるな」
拙者の台詞なのにと微笑む隣の侍は前も言ったけれど天然のときめき職人だと思う。わたしのときめきはこの一緒に過ごした月日で量産されまくっているよ。
「白兵くんて、やっぱり手大きいよね」
にぎにぎと握れば押し黙る白兵くん。首を傾げれば「拙者もときめいたでござる」と顔を逸らすものだから私まで恥ずかしくなってしまった。でもそのせいで寒かった身体がポカポカする。
「ありがとう」
「え?」
いきなりお礼を言われ、なんの事かさっぱりだ。手が大きいって言った事?、と尋ねれば首を振られた。違うの?じゃあなんだろう、と朝からあった事を思い出していれば目の前が暗くなり唇に柔らかいものが触れる。
「のわわわっ!不意打ち!」
「必死で思い出そうとしている花子殿が可愛くて、つい」
可愛いのはそっちだっつーの、そんなフフフと笑いやがって。
「ありがとう、花子殿」
「だからなんの事?」
「住居を与えてくれて」
「そんな前の事!?絶対分からないよね、考えても絶対浮かばなかったよ…しかも、当たり前の事だし」
「食事を与えてくれて、衣服を用意してくれて、外の世界を教えてくれて」
繋いだ手をにぎにぎしながら楽しそうに話す白兵くんを横目で見る。そんなのも当たり前だよと返せば、見返りを求めずに他人の面倒をみるなんて普通出来る事ではないと褒められた。最初から下心満載だったので恥ずかしさでいっぱいだ。ごめん、白兵くん。
「まだまだ沢山ある」
「他にも?」
「書物を沢山見せてくれて、職に就かせてくれて…」
「それからそれから?」
「拙者に恋と言うものを教えてくれて」
そう言った白兵くんは少し寂しげな笑顔をしていて、だけど幸せそうで、わたしはただ「いーえ、とんでもない」と笑顔で返した。それ以外にこの気持ちをこんな表情をして言っている彼になんて言えば良いのかわからなかった。
「綺麗だけど、やっぱ寒いね…帰ろっか」
こくりと頷くのを確認して車へ歩き出す。
ほんと、馬鹿だなぁわたし。恋を教えた、なんて自覚はないし、ましてや白兵くんの私への想いが初恋なんて初めて知って凄い浮き足立ってしまっている。こんなに涙ぐんだ目元で運転できるだろうか、白兵くんには見せないように車へ乗り込んだ。
帰り道、車の中ではいつもみたいに他愛のない話をして家路につく。
ほんといつもと変わらない。
そして、家に着き互いに風呂を済ませた。先に風呂を済ませた私は自身の部屋で白兵くんを待っている。キィッと音を立て扉を開き、ドライヤーを持って少し照れながら入ってきた。
「…いいでござるか?」
「はい、どーぞ」
ベットへ上がり目の前をぽんぽんと叩けば嬉しそうに腰を下ろす。私は彼の髪の毛を手に取りドライヤーの風をあてる。さらさらな彼の髪が私は大好きだ。
横から前髪を乾かせば気持ち良さそうに目を細めていて私も嬉しくなる。
「はいっ、終わり!さらさら〜」
ドライヤーを止めて背中をぽんっと叩く。
白兵くんがぎゅうぎゅうと抱きついてきてそれがなんだか小動物のようで乾かしたばかりの暖かい髪の毛を撫でた。
「よしよし、寝ようか?」
「……ん」
布団に潜っても抱きついたままの白兵くん、いつもはなかなか温まらない布団の中が今日はとても温かくて私は直ぐに睡魔に襲われた。その時、白兵くんが何かを言った気がしたけど私はもう眠りに入っていて、よく聞こえなかった。
「…る。花子殿…さようなら」
朝、カーテンから差し込む光で目が覚めた。
身体を起こして目元をこする。白兵くんは隣にはいなくて、いつもの朝食の良い匂いもしてこない。一応リビングも脱衣所も覗いてみたけれど、やはり彼はいない。
(…神様って残酷だなぁ、寒い)
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