■ 泣き止んだら笑顔を見せて。
あれから、少しの間泣きじゃくっていた白兵くんだったが反省をしたようにすっくと立ち上がり洗面所で顔を洗って拭いたであろうタオルを首に掛けて帰ってきた。白兵くんはもう泣いてはいない。だけど肌が元々白いせいか目元が余計真っ赤に腫れてみえた。
「情けない所を見せてしまったでござるな」
「そんな事ないよ」
ソファに座り直した白兵君は此方を向き直り頭を下げる。そんな事ほんとにない。「わたしも同じ事を考えてる」そう言ったら何か苦虫を噛み潰したような顔をして、それから困ったような笑いを浮かべる。
「此処へ来る以前から拙者は色恋など興味はない、剣一筋に戻るだけでござる」
それではもう恋はしないと言っているようなものじゃないか。
「駄目だよ、そんなの」
「花子殿は拙者とは違う」
少し目を伏せた後、顔を上げる。白兵くんの手の平が頬に触れる。
「とても、可愛い顔立ちをしているから愛してくれる者も沢山いるでござろう」
じわりと涙が浮かぶ、そんなの、そんなの、自分の事は忘れて他の人と付き合えって事じゃないか。白兵くんよりも幾分も歳が多いんだから余り涙は見せたくなかったけど、ポロリポロリと我慢した為に瞳の中に溜まりに溜まった大粒の涙が落ちた。
「花子殿、酷な事を言っているのは分かっている。けど、貴方には幸せになって欲しい」
「でも、でもっ、さっき白兵く…」
「もう大事ないでござる」
「わた、しが他の人と居ても…平気なの?」
「……勿論、大事ない。貴方が幸せになるのなら」
ぼやけた視界で笑う白兵くんは私が思っているよりも、ずっと、ずっと、大人だった。
私は大人になれそうにない。
他の人と幸せになってと言われただけで胸が張り裂けそうになる。けれど、それじゃあ駄目だよね。白兵くんが私にそう言っているように私も彼の幸せを願わなければ。
「約束しよっか」
「……?」
「もしも…もしもね」
「……」
「私が白兵くんの世界に一緒に行けなかったらさ、ちゃんとお互い幸せになろうね」
「…ああ、約束しよう」
「約束」
ゆびきりげんまん!と絡めた指を離したくなかった、約束をしたら本当に今すぐ消えていなくなってしまいそうで、その言葉が本当になりそうで。私にはまだ歳月が必要だから、この約束は三十路くらいまで守れそうにないけれど、大丈夫だよ。きっと、時間がなんとかしてくれる。
「今日は一緒に寝てくれる?」
「今日だけと言わず、最後の日まで」
(気持ちを隠せ、隠せ、どこに?)
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