■ でもね。
でもね、わたし見てしまったんだ。君が抱き締めてくれた肩が、少し光透けているのを。白兵くんは最初からとても長い月日をわたしと過ごして来たね。
目をつぶる。
まだ、大丈夫。
白兵くんが一緒にいてくれた日々は今まで味わったことがないくらい胸がドキドキして甘かった、と自分から言うのは恥ずかしいけどそう思う。
優しい白兵くん、怒ると怖い白兵くん、ベタな感動もののテレビで号泣しちゃう白兵くん、耳かきをすると直ぐに眠くなってしまう白兵くん、意外と狼な白兵くん、直ぐに照れて赤くなる白兵くん。
「大好き」
こんな事が起こる以前には知らなかった。刀語と言うアニメの中で見た白兵くんは昔からよく言われている侍そのものって感じで凄く冷めたイメージだったから。意外と低い声で静かに「ときめいてもらうでござる」としか喋らなかった気がするし、出番とかほんと少なかったよね。だから尚更、君と出会って過ごした日々はとても新しい事ばかりで楽しかった。
「こんなに好きになるなんて思わなかった」
離れたくなくてわたしは彼をぎゅうと抱き締めているけれどそれ以上に力強く抱き締めてくれる白兵くんが、いつも好き好きと甘えてくる白兵くんがいなくなるなんて。
「嫌だ、嫌だ嫌だ」
「…花子殿」
君は元の世界に帰りたいの?なんて私ももう大人なのだからそんな事を聞いたら白兵くんが困ってしまうことぐらい分かっているから、わたしはその言葉を呑み込んだ。
「花子殿…」
私の名前を優しく呼ぶこの声がいつまでも続けば良いのにと思う。
ただ、ただ…それだけなのに叶いそうもなくて私は今の時を大切に過ごそうと涙を流した。
(帰りたくない訳がない。自分の本当の世界なのだから…けれど彼女を悲しませるくらいならば神にも抗おう。それほどに彼女を愛している)
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