■ 暖かい息をあなたに。
寒くなってきたなと蛇口を捻って出てきた水に触れて思う。冷たい、けれど節約も兼ねて食器を洗うのにも最近はお湯を出さずに水で済ませている。
さすがに辛くなってきたかなと水を止めてタオルで手を拭く。
「花子殿、食器くらい拙者が…」
「ううん、いーのよ別に」
ソファに座る白兵くんの隣に座りながらいーのいーのと手を横に振ればその手を掴まれる。
「え…」
「冷たい…」
白兵くんの両手に包まれた手がジンと熱を帯びていく。暖かい…。その手が白兵くんの顔に持ってかれて少しどきりとする。あ、あの…と声を出せばフフッと笑われて両手の隙間に口が付けられた。
−−はぁ。
暖かい息がそこから送り込まれ白兵くんの手の中の空間が更に温められる。
「あ、ありがとう…」
「これくらい、いつでもするでござるよ」
にこりと微笑まれて、ふと顔の距離が近い事に気づいてしまった。白兵くんもそれに気づいたのか、顔を一気に赤らめて目を合わせたまま硬直してしまう。
「…花子殿、目を閉じて貰えるでござるか…」
そんな白兵くんの可愛い言葉にわたしも少し気恥ずかしくなりつつも静かに瞳を閉じる。
「花子殿……」
顔に影か掛かり視界が少し暗くなる、白兵くんの顔が近づいているのだろうその唇の感触を待っている自分がいて何だか恥ずかしい。
もうここでバチッと目を開いて驚く白兵くんにブチューっとキスをかまして押し倒せたらどんなに楽なのだろうと頭の中で思った。
−−ぷちゅ…
なんだこの感触は……
「成功〜どうすか俺が作った茹で卵のお味は!二人とも目瞑ってたら接吻なんて出来ないぜ?まったく教えてあげてんだから感謝して欲しいもんだな、それも盛大によお!きゃはきゃは!」
「その通りだぜ錆白兵、ふっきれて二人の空気つくんのも良いけどよお」
「私達の事を忘れて貰っては困りますねぇ、ふふふっ。昼間からお盛んな事で本当見せつけているんですよね、ムカつきますねぇムカつきますねぇ」
目を開けば目の前には殻が剥かれた茹で卵、そしてそれを持つ真庭蝙蝠の姿だった。そして後ろから川獺、喰鮫と現れる。私が食器を洗っている隣できゃあきゃあ楽しそうに鍋でなんか作ってるなとそっとして置けばこれか、とこめかみを抑える。
「なんめご、たっか遅がだんたしとうよめ止」
「白鷺くんか、君一番まともだよね。ありがとう」
迷彩さんと言えば静かに雑誌を読んでいる、きっとあの笑顔からしてグラビアだ…。
「こんなに沢山人がいたんじゃ仕方ないね、白兵くん。…白兵くん?」
蝙蝠さんの茹で卵の感触を味わったであろう白兵くんは俯き肩を震わせている。こ、これはまずい、普段温厚な人が怒ると恐いとは言うがまさに白兵くんの事を示すのではと思うほど白兵くんが怒ると恐いのだ。
「ふ…ふふ…」
「あ、あの…白兵くん?」
「お主等いい加減にしろ殺されたいのか、否、殺す…花子殿、拙者の薄刀はどこに?」
こ、恐ぇぇぇ…しかしこの部屋を血塗れの刺殺現場にはして欲しくない。むしろ普通に暮らせなくなるどころが警察が来てほぼ人生が終わってしまう。
私はぎゅっと白兵くんの両手を握った。
「私は優しい白兵君が大好きだよ」
「そ、そうでござるか?…悪戯しちゃ駄目でござるぞ真庭忍共」
(なんだこりゃ)
(まぁ、殺されなくて良かったな)
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