■ なんだかなー。
次の日、彼等はすっからかんと消えていた。朝、白兵くんと顔を合わせてポカンとした。こんなあっさりいなくなるもんかと。
「部屋、広くない?」
「そうでござるな」
ぽつんと机に向かい合わせに座り朝ご飯を2人でとる。きっと蝶蝶さんが寸前に記したであろう彫刻で彫られた"さらばだ"の文字は総スルー。
しかし白兵の中では凄まじい感情が渦巻いていた。寂し気に俯く花子殿も可愛いが嬉しい、やっと二人きりに戻れたのだから嬉しいに決まっている。今日から…二人きり。ふふ、はははは!し、しかし、ここでなぜ言わぬ。拙者がいるでござるよ!の一言がなぜ出て来ないっ!
「あ、白兵くんこんな時間だっ!遅刻しちゃう!」
パタパタと足早に身だしなみを整えつつ玄関へ向かう花子殿を追いかけ玄関で日課の見送りをする。さぁ、言うのだ錆白兵と自分で自分の背中を押す。
「花子殿っ!」
「なになにっ?早くしてっ遅刻しちゃう!」
「せ!せ、せ、拙者がいぬでござるよ!!」
「いぬ?犬?」
ハッと気づく、噛んでしまった。こんな恥ずかしい事はないと羞恥心に苛まれ顔が熱くなる。犬でござるなんて、馬鹿みたい、じゃなくてただの馬鹿だ。変態だ。
「ぷ…はは!白兵くんったら…」
赤くなった自身の顔を隠すように俯いていれば突然の笑い声に顔を上げる。合わさる視線に少し胸が忙しなくなった。
「私には白兵くんが"いる"だよね?」
「白兵くん、ありがとう」
(じゃあ、行って来ます)
(花子殿のその柔らかで可憐な笑顔は何度見ても飽きぬと言えば貴方はどんな反応を拙者に見せてくれるのだろうか)
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