■ とんでもありません。
「いってらっしゃい」
仕事まで行く道を途中まで一緒に歩いてきた、風貌が以前とだいぶ変わった彼にエールを送る。きっと彼なら大丈夫だろう。さて、私も仕事へ行かなきゃ。
仕事に身が入らないとはこの事だ。
もう気になって気になって仕方が無いのだ。きっと白兵くんは何も問題を起こさずに溶け込んでいる事だろうけど…だ、駄目だっ!!
「先輩、すみません…早退させて下さいっ!!」
「え!ちょっ、花子さッ…」
うおおおおおっとヒールを鳴らしながら大股で走る事十数分…白兵くんが働く店の見える位置まできた。とりあえず電信柱に隠れ休む。ぜー…はー…疲れた。
ど、どうだ…白兵くんは頑張ってるかな…−−!?
「な、なんだとっ…」
確かに今の時刻は家庭を持つ奥さんが夕飯の食材を買いに行ったり学生が下校する時間帯だが…なんだこの行列、そして人混みは。店が埋まって見えない。人がゴミのようだと誰かが言った名言が頭に浮かんだ。
「……いけないいけない、今一瞬気が遠のきそうになってしまった」
そして白兵くんはと言うと、鼻息が荒そうなおばちゃんに困った笑顔を浮かべてきっとコロッケが入っているであろう袋を渡している。ここから見ても分かる白兵くん。
うん、お姉さん、心配する必要なんてなかったね。ごめんなさいっ。
恥ずかしながらも早足で家路を歩く。
まったく早退までして何を考えているんだあたしは。
−−ガチャリ
「ふう…ただいまー…」
なーんて誰も居ないのに言ってみる。
以前だったら誰ですか!なんて事になっていたのになぁなんて少しクスリと笑った。
白兵くんが帰ってくるまで録画した昨日のドラマを観てようかなーとリビングを開けた時、その光景に私は息を呑んだ。
な…ど、どんなリアクションを求めているのだろうか…私に。
「戦隊モノを意識してるんですか?」
(また始まったよ、はぁ…)
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