■ 切って、染めて。
「行かないで」
涙を溜めて玄関に立つ。
今から髪を切りに行くと言うのだ。うん、分かるよ。働くんだもの、この長い髪の毛じゃあ無理だって事ぐらい、いくら私でも分かるよっ。
「本当に行くの?」
働くのは私がやるよ、家の事は白兵くんが全部してくれているぶん私は働く。それで良いじゃない。おかえりでござるっと笑顔で出迎えてくれるだけで良いのに。
「花子殿…」
首をふるふると振る白兵くんは既に決意を固くしているようで私は掴んでいた袖を離した。
「いってらっしゃい」
ホロリと涙が流れた。
私の涙を指で拭くと困ったように白兵くんは微笑んでこう言った。
私を困らせる為に働く訳ではないと、うん分かってるよ。白兵くんだってここで暮らす術を必死で探しているんだよね。
「ごめんなさい、大丈夫!もう大丈夫!いってらっしゃい!」
「ふふ、花子殿。では…行って参る」
「どんな白兵くんも格好良いよ、うん」
「なっ、で、でっでは!」
がしゃん、ドアを開け急ぎ足で外に出た白兵くんの後ろ姿を追う様に外へ出て見送る。動揺して少しつまづく彼も彼らしくてとても可愛いな…はっ、ヨダレヨダレ、不謹慎な。まだ鳳凰さんの事を私は想っているのだから。
まもなくして家のドアが開く音がする。どう…なっているのか気になって胸の鼓動が忙しない。ガチャリ、リビングのドアが開かれただいまと言う声が聞こえる。
「おかえりな…」
何があっても平常心を貫こうと決めていたのだが…私は近くにあるクッションを顔に押し付けた。
「花子殿?」
照れ臭そうに私の名前を呼ぶ白兵君をもう一度チラ見する。髪の毛を短く整える事によって端正な顔が更に際だったと思う。美容室に行かせて良かったと心から思った。もうこれ今時の子やん、まだ髪は白いけどこれは…そこら辺のアイドルよりも格好良いだろう、むしろアイドル謝れ。いやしかし我が子ほど可愛いと言う一種の親バカか?親バカなのか?
「あ、あの…少し幼く見えないでござろうか?」
「か、かか」
「か?」
「格好良すぎて直視できそうに…ないです」
クッションに顔を埋めてはいるがガタンと椅子にぶつかる音がしたのできっと白兵くんが狼狽えているのだと感じた。
しかし、髪の毛を染めたらどうなる?
今よりももっと現代風になるだろう、見たくないか花子。ここまで来たら最後までだ。
「白兵くん、風呂場に来たまえよ」
「え!?」
クッションを顔から離し彼の腕を取り歩く。近くで見ると益々イケメンだ、二十歳。若いなあ、私がその年齢の時はもう遊んでばっかいたよ。白兵君が本当に現代に居たら、私なんかと絶対知り合わない環境に居た事だろうと見えないよう俯き自嘲気味に笑った。
風呂場に着き上半身を脱がす。
「はいっはいっ、これもっ!」
「ちょっ!待っ…」
「染めるのだっ!!白兵くんよ、大志を抱けっ」
意味は分からずも言ってみた。
さすれば白兵くんは一気に顔を染めて顔を下に向けた。?、どうしたのだろう。
「あれれ、まさか白兵くん」
少しニヨニヨと笑いながら告げてみれば可愛い反応が見れた。
「そ、それは…誰だって…期待、するでござろう?」
しゅううう〜…と湯気の音が聞こえそうなのなお互い様であった。
自分から聞いたのに、私って馬鹿?
(期待せぬは男ではあるまい)
(若い、若いよ、こっちが恥ずかしい)
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