■ みつけたみつけた!
その大きな声は仕事場へ迎えに来た白兵くんのものだった。遠くから花子殿ー!と走って来るから周りの人がチラチラ見ている。殿とか言うから…あれ?違う、あれは女の男を狩る時の目だ。
白兵くんが息を切らしどうしたのでござるかと聞くものだから鈍チンめと言ってハンカチで額の汗を少し拭ってやる。
「かたじけない」
それを見ていた周りの女子達はそそくさと離れていった。ほれ解散しろ解散!
「どーしたのそんなに走って、珍しい」
ふう、と息を吐きいつもの調子を取り戻した彼はさて帰るでござる。と自然に、さも自然に手を繋いで歩き出した。
ええええ、これ握手じゃないよね!手繋いでるよね!ぶわあああと顔に熱が集まる。
ははは恥ずかしい、この歳で手を繋いで会社から帰る事になるとは思わなかったよ。チラリと白兵くんの横顔を見れば耳が赤くなっていた。この子、照れながらもこういう事をするのよね。
「花子殿、拙者働ける所を見つけたのでござる」
「え!?」
うそ!それ騙されてない!?職業ホストとかそっち系でこの可愛い顔を利用されてない!?と心配していれば笑われた。
「普通の仕事でござるよ。よく買い物に行く商店街の精肉店の田中殿が紹介してくれて…」
主夫で構わないのにと言えばそういう訳にもいかないらしい。
「家事は今まで通りするでござる」
仕事場は精肉店の主人が副業でやっているコロッケ店らしい。そこの頭の人がぎっくり腰をやってしまったらしく、いつも来ている白兵くんに頼んだと言う訳だが…白兵くんがそこで働いているのを想像してみるが出来ない。に、似合わなすぎる。
「それでお願いがあるのでござるが」
そう言われついた先は薬局。
ま、まさか。
「やめよう、働くの」
「花子殿…」
白兵くんが髪の毛を暗くするなんて嫌だあああと駄々をこねる姿はこの歳でさすがに痛い
とは分かっている。分かっているけれど嫌なものは嫌なのだ。もうもふもふ出来ないって事?更には毎朝キラキラした白銀色の髪の毛も見れない、加えてドライヤーも…うわあああ。
「ほ、本当に染めちゃうの?」
こくりと頷きお願いするでござると言われてはもうヤダと駄々をこねる訳にはいかない。だけど、やだやだやだ。
「じ、じゃあ一日だけ染めれる奴を大量に購入するよ」
「勿体無いから駄目でござる」
手にとったのは色が抜けても分かりづらくするため黒に近めの暗茶色。
それをコトリとレジに置く。
「いらっしゃいませ。お、お客様?あのお会計で大丈夫でしょうか?」
「え、ええ。花子殿、手を離さねば会計出来ないでござるよ」
(繋いだ手を離すよりも難しい)
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