■ 平凡な日々が始まった。
ちゅんちゅん。
鳥のさえずりで目を冷ました私はとりあえず着替えを済まし顔を洗いに行く。さっぱりしたらリビングへ。台所ではトントントンと何かを切る包丁の音と鍋がコトコトと煮える音、そして鼻をくすぐる朝食の良い香りがする。
おはようでござる、とニコリ笑う白兵くんが専用エプロンをつけて暖かいコーヒーを机に置いた。
私は椅子へ腰掛けTVを付けコーヒーを口にする。美味しい、苦いと飲めない私の為に少しミルクとお砂糖を入れて私の好みにしてある。以前は面倒臭いから我慢して飲んでいたけれどいつも半分くらいは残してしまっていたのだ。これ本当美味しい。
「…って普通に充実してるやないかい」
「?」
お盆にご飯やお味噌汁、焼き魚をのせ机に並べている白兵くんが私の変なつぶやきに小首を傾げた。
いや、ね?昨日まで凄い寂しい寂しいって泣いていたのに結構平気、と言うか朝から静かに起きられて充実した一日を始められようとしているんだよ。
ほら!めざましの占いを自分のものを見てゆっくり今日のラッキーパーソンはこれかあ、なんて考えられるんだよ!
いつもなら、鳳凰さんが自分の星座きたら私にやれ自慢やらラッキーはどこどこだから今日はここへ行くのだなどと話を始めるものだから自分のものなど流し読み程度になってしまっていたのに。
そうだ、醤油を忘れていたとキッチンへ向かった白兵くんの後ろ姿を見て呟く。
「なんか、逆に怖いわ」
いないのが当然、普通だったのだと言われているみたい。白兵くんもいなくなってしまったら私は普通にここで一人の生活をさも当然のように今まで通りおくっているのだろうか
。
帰ってきた白兵くんが私を見てギョッとした顔をしている、どうしたのだろう。
「花子殿」
泣かないで頂きたいと胸に収められた。そうか、泣いていたのね。白兵くんの服を握って顔を埋める。私、最低かもしれない。
白兵くんの優しさを利用して
私を好きと言う気持ちも利用して
「白兵くんはどこにも行かないでね」
それを聞いた白兵くんは私の肩に頭を埋め私を安心させるように言う。
「勿論でござる」
(だから泣かないで)
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