■ 錆くんの決意表明。
これで、これで良かったのだと思う。
花子殿は泣いた。
ポロポロと涙を流して泣いた。
男同士の秘密を話してしまって鳳凰殿には悪かったとは思うが、これでは互いに悲し過ぎる…。そっか、ありがと。と言った顔は清々しく泣きながらも笑った顔は拙者が好きになった花子殿だった。
〆
白兵くんが語ってくれたそれは鳳凰さんが居た時にたまに男同士の会話でちらほらあった事だったり、私がいないところで鳳凰さんが私の事をどれだけ想っていたのかだった。
なんだ、本当にちゃんと好きで居てくれていたんだ。私達が過ごした時間は嘘じゃなかった、夢でも何でもなかった。
それはそれで悲しいし寂しいけれど、なんだか吹っ切れはした気がする。
「あー、くそう」
久しぶりにこんなに好きな人が出来ていた。忘れるなんて出来っこなさそうだ。
頭の中で鳳凰さんと過ごした日々が蘇る、初対面での俺様発言にはどん引きしたけれど、なんやかんや楽しくやって来た。色んな所へ行った、色んな表情を見た、色んな…事をされてドキドキしたりした。
うう、こんなに好きになってたなんて…今更だ。
「花子殿、まだ…好きでござるか」
「え?…あはは、気付くのが遅過ぎたけどね」
「拙者では」
「え?」
ソファーに座った私の向かいにひざまずき王子様のように手を取られる。
「拙者では鳳凰殿の代わりは務まらないでござろうか、決して花子殿を一人になどしない、悲しませない、神に逆らってでも貴方と共にいる」
きっとコレに落ちない弱っている女子などこの世界には存在しないだろう。でもごめん、今はそんな気になれないんだと告げればいつも通りに微笑んだ。その掴んだ手を自身の頬に持っていき白兵くんの白い肌に当てられ冷んやりと彼の温度を感じた。
「な、なななにしてるの?!」
「拙者はいつ迄も貴方を待っているでござる、それ程までに貴方が好きだ」
不謹慎にも頭に心臓の音が木霊してしまっている。ごめんなさいごめんなさい鳳凰さんごめんなさい、こんな真っ直ぐな透き通った水色の綺麗な瞳に見つめられてこんな事言われたら蒸発するでしょ、みんな!
「花子殿が鳳凰殿を忘れられなければ其れでも構わないでござる、貴方が悲しさを紛らわせるなら拙者を利用してくれれば」
きっと、白兵くんはこれから先もずっと私にこういう優しい言葉を掛け続けてくれるだろう。鳳凰さんを思い出す度に私の悲しさを埋めてくれるだろう。
白兵くんは優しい良い子だから。
「………そんな酷い事出来ないよ」
顔が火照り縮こまった声でそう伝えれば、そう言うと思ったでござると溜め息を吐き立ち上がった。
「さあ、暖かいご飯でも食べよう」
え?さっきと何か違わない?冷め過ぎじゃない?私少し寂しくなったんだけどと驚いていれば白兵くんは声を出して笑った。珍しい。
ぽけーっと見ていれば視線に気づいたのか恥ずかしそうに腕で口元を隠しキッチンへ向かって行った、可愛い。
「拙者の人生、拙者の好きな事をやる。花子殿は拙者の事を気にせずとも良いのでござるよ」
「………ありがとう、白兵くん」
(鳳凰殿と会える日まで)
(貴方が幸せならそれで)
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