■ 不機嫌な男の子




やだやだやだやだ、なにこの可愛い動物は。帰ってきたら凄い拗ねている白兵くんが机に突っ伏していた。どーしたの?と覗き込んでも別にと顔を反対に逸らす。えー、これ本当可愛い。

「やきもちですか」

肩が揺れて恨めしそうにこちらを向く。そんな睨んでも可愛いだけなんだけどなあなんて不謹慎にも笑ってしまう。

「花子殿」

分かってるならそっとして置いて欲しいでござる、と言ってまた突っ伏してしまった。まぁ、私も白兵くんの気持ちを知っていて悪い事をしてしまった。反省しよう。

もう遅くなってしまったしお風呂入らなきゃ、とりあえず鳳凰さんに声を掛ければ先に入ってくれと言われたのでお風呂の用意をしていると左右田さんが何処からか現れた。

「いつ見ても格好良いですよねえ」

扉に背をもたれた左右田さんは私の話をいつもスルーする。まぁ、もう気にしていない。私がどう思っていようがベタベタしようが関係ないんだろう。だから私も楽しんでやってられるんだけれど。

「今から風呂か、ああそういえば鳳凰殿の願いはどうだった。叶えてやったんだろう?」

分かっているかのようにニヤリと笑う左右田さんになんだかやらしいですねと言えばまたもスルー。どうしたらそんなに冷たくできるのか、姫様にはヘコヘコのくせに。

「内緒。プライバシーの侵害って奴ですよ、でもとりあえず後は貴方と白兵くんのお願いだけです」

ぷらいばしー?と首を傾げる左右田さんにその意味を教えれば面白くないと言われたけど鳳凰さんのあんなふしだらなお願いを叶えた事なんて言えるわけない。

「でもまぁ、左右田さんが一緒に寝て欲しいとかお風呂に入って欲しいとかそう言うお願いしてくれれば私もウハウハなんだけどなぁ、左右田さんその筋肉触っても良いですか」

絶対スルーされると思っていた、むしろ頭を叩かれるかとも思っていた。けれど左右田さんはそうだな、じゃあ今日は寝所を共にするかなんて笑ったから私は固まってしまった。

「冗談だ」

「え?」

「冗談だ」

「は、ははは、ですよねえ」

もう冗談に聞こえませんでしたよーほんとそう言う分かりにくい冗談は止めて下さいと笑えば"へぇ"と笑う。

「案外此方から手を出すと反応が面白いんだな」

身体を起こしこちらに一歩一歩近付いてくるフェロモンの塊にひいいいい!と身を引いていればドタドタと騒がしい足音が近づいてきて部屋の前で止まった。

ワナワナと震えるのは先程まで机に可愛らしく机に突っ伏していた白兵くんであった。

「−−花子殿には手を出すなー!!」

や、やはり…左右田殿の姿が見えぬと思ったらこんな所にと息をゼーハーさせる白兵くんは部屋に入って来ては私から左右田さんを遠ざけた。

「錆殿の所為で興醒めだ。まぁもし錆殿と鳳凰殿の二人が先に元の世界に戻ったら花子の今まで言っていた事を全部叶えてやろう…じっくりとな」

笑いながら部屋を出て行く左右田さんを二人で見送りながら私は息を吐いた。私が今まで言っていた事なんて子供の前では言えないような事ばっかりだ。はわわわわと震えていると白兵くんがぽつりと言う。

「やはり左右田殿がいいのでござるか」

「え、いや、そうは言ってはいたんだけどね。あんなに態度を変えられるとさ…」

「花子殿を残して拙者は元の世界になど帰りたくない」

「うん、私も白兵くんには帰って欲しくないよ(癒しだから)」

今まで俯いていた白兵くんがチラリとこちらを向いた。もじもじと何かを言い始めたぞ、か、可愛い。

「左右田殿がなにかしてきたら…その、嬉しい…でござるか」

「いや…困る…(恥ずかし死ぬもん)」

「では!」

ぱあああっと顔を明るくした白兵くんに首を傾げれば、拙者が花子殿をお守り致す!と威勢良く立ち上がり行ってしまった。

ほんと何て可愛い子だろう。



「だけど何でお風呂の前にいるの」

ポカポカの身体で風呂場の扉を開ければ白兵くんが木刀を持ち座っていて此方を無垢な笑顔で振向くものだから私も何も言えなかった。

「とりあえず、リビング戻ろっか」


(comment*☆.)


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