■ 最初のお願い。2nd
ガチャリ扉を出れば直ぐに鳳凰さん。なんだか難しい顔をしたからお待たせしました、てへっなんて可愛く言ってみたんだけど凄い顔を逸らされた。
そ、そんなに怒ってる?
移動は私の車で行くようで、乗ってからも右、左、左、真っ直ぐと言う会話しかせずに気まずい空気を味わっていた時やっと鳳凰さんが口を開いた。
「そういう洒落た格好も、その…似合うのだな」
「へ?も、もう一回」
「もう言わんぞ…」
なんだ、怒ってるんじゃなかったのか。ほっと胸を撫で下ろし…え?ほほほほ褒めた、鳳凰さんが似合ってるって言った。
「どこか悪いんですか?」
そう言ったら頭を叩かれた。いたい。
そして車を運転して三十分、物凄い山路の坂をこの軽自動車で登っている。かろうじて道、と言ってもいい。がしかしこの揺れ具合大丈夫だろうか、ガソリン入れたばっかりで本当良かった。こんな所で止まったら携帯も繋がらないんじゃないか?むしろ誰かが通りがかるまでこの人と二人で野宿生活しなきゃいけないとか悪夢だ。
白兵くんだったら顔を赤くさせる彼にセクハラやりたい放題だからウハウハだし、左右田さんは…うわ私この車内が埋まるぐらい鼻血出して、出血死する。駄目だ、消して彼と車内で二人は避けなければ。
「もうすぐ開けるぞ」
ひらける?車がその樹々の間を抜けると私はブレーキを踏んだ。いきなり視界が明るくなったから少し目が霞んだ。
−−がちゃり、鳳凰さん側の車のドアが開く音がする。そして私の方のドアも開けられおどおどしていると手を引かれた。
山特有の土のにおいが鼻をくすぐる。
鳳凰さんに手を引かれ歩いて行けば視界が開けた。ぱっと鳳凰さんを見ればこっちの様子を伺っていたみたいで目があった。どうだ?と聞かれても凄いの一言。彼が連れて来たここは街が一望できたのだ。高くから見た街は小さい頃学校の屋上から見た景色よりも遥かに小さくて私はこの景色に見入ってしまった。
「ここに来ると、やはり我が居た地ではない事を実感させられる」
そう言った鳳凰さんはどことなく寂しげに微笑んでいて、普段は別に平気だと言っていても本当は自分がもし帰れなかったらとなるとやはり悲しいし寂しいのだろう。やはり鳳凰さんだけが何ヶ月もこの世界に滞在しているし心配になるのだろうか。
「この世界の日本は誠に平和そのものだ。忍もいない侍もいない、文明が進化し続け生活が楽になり、そして食べ物も美味い」
景色を眺めながらそう言った鳳凰さんの手を握れば驚かれたけど払われはしなかった。だからギュッと強く握ってやった。大丈夫だよ、なんて鳳凰さんには死ぬ程恥ずかしいから言わないけどなんとなく伝わればいいな。
「……なあ、花子。我が嫌いか?」
「……うん、嫌い。大人のくせにワガママだし俺様だし鳳凰さんなんて」
「だが我は好いている、お前の事を。」
「ーえ?」
「もし願いがひとつ叶うならば、お前と同じ世界を共に生きたい」
それが願い?
だとしたら私にはどうしようも出来ない願いだった。鳳凰さんはそれを知っていて言ったんだ、だってその後に"なんてな"なんて苦笑いで笑うものだから私は馬鹿と呟いた。
「もしの話だよ」
「鳳凰さんは私のこと嫌いだと思ってた」
「我は素直ではないからなあ」
「わたし、鳳凰さんの事、嫌いじゃっ…ないよ!」
「知っている」
夕日に照らされた鳳凰さんはそれはそれは格好良くて、胸がキシキシ締め付けられた。この人こんなに格好良かったっけ、なんて思って見てれば何だか目が潤んで来た。
鳳凰さんが消えちゃいそうで怖い、私はそう思って繋がれてない方の手でバックを漁った。
出てきた巾着を鳳凰さんへ渡す。ずっと渡そう渡そうと思っていたけど、ケンカやらムカついて渡せなかったんだ。
「これは?」
「もし、もしね…元の世界に帰ったらこれ開けて欲しいの。きっと役立つから」
里の復興の為に。私はこの人の里に関しての話は聞いたことがない。むしろ弱みを見せて貰えた事がない、だから言えないけれど。
「我の願い、聞いてくれるか?」
「うん、なんなりと。今なら何でも叶えてあげれると思−−んっ」
手を引かれ腰を抱かれ塞がれた唇、そうくるかと驚いたけど…まあ今だけは言う事を聞いてあげようと思う。しかしこれは経験値の差と言うものだろうか、うま過ぎて腰が砕けそうだ。息が漏れてはまた塞がれ、角度を変えてはまた塞がれる。
−−−ぐいっ
「っはぁ…もうここまでっ、黙ってれば…長いんですけど」
胸を押して口を離させれば物足りないとでも言うような鳳凰さんの甘ったるい顔についやられそうになってしまった。
鳳凰さんの本当のお願いは叶える事が出来なかったけれど、とりあえずはこれで良いらしい。大人になると付き合ってなくてもこんな事できちゃうんだもんな、なんだか複雑。
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