■ 夜は一人で出歩かない。



「山田さん、お疲れさまでーす」

「お疲れー、と…なんだか早く終わっちゃったなぁ」

時計を見ればまだ白兵くんと待ち合わせの時間まで余裕がある。早く終わっちゃったから途中まで一人で行こうかな、どうせ途中で白兵くんに会うだろうし。

私は会社をいつも通りに出た。


夏も過ぎてもう夜が早いのよね、だんだん暗くなる空を見る。あーあ、鳳凰さんと人鳥くん、白兵くんがこの世界に来て時がこんなに過ぎていたんだ。そうか…そんなに。


今もし…いなくなったら私。

寂しいんだろうなあ…




「花子さん………」


後ろを振り返ればそこには知らない男が立っていた。え?誰?と聞けば、僕だよ僕…いつも家まで送ってあげていたじゃあないか、今日も可愛いねと変な笑みを浮かべている。

つけられてる気がしていたんじゃなかった。本当につけられていたんだ。や、やばい、これは非常にマズい。護身術なんて習った事ないし、ましてこういう時に何をしたら良いのかすら分からない。生憎、ここは余り人通りが多い所では無いみたいだ。

「どうしたの?ああそうか、恥ずかしいんだろう、そんな顔をして…本当楚々られるよお」

うわ、楚々られるとか何だよマジでおい、私は後ろに後ずさりをする。とりあえず走って近くのコンビニの中に入って通報、それが良い。

その時、汗ばんだ手に腕を掴まれた。

ぎゃああああ!!気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!!声に出したら殺されそうだから言わないけど助けてー!!

荒い息遣いが近付いてくる…

もう駄目だ…





そう思った瞬間、その男が真横に吹き飛んだ。そして、コンクリートの壁にめり込んでいる。こんなの漫画でしか見た事がない、そしてぱらぱらとコンクリートの破片が地面に落ちる。


「汚い手で花子殿に触れるな…」

「は、白兵くん」


うちの家の侍がいた。私は気が抜けて地面にへたり込んだ。死ぬかと思ったよー、私は年甲斐もなく泣いた。それはもう怖かった、こんな事になるだなんて思いもしなかったから。

ずんずんとその男の元に近付いていく、そして胸ぐらを掴み男を起こす。私は恐る恐る抜けた腰で(四つん這いだけど)白兵くんに近付いていく。

「貴様、次に花子殿に近付いたら命は無いと思えよ…この世界で無かったらお主はとっくにあの世行きだったな」

そう言い男を地面に投げ、逃げるその男の顔目掛けて木刀を振り降ろした。
殺したあああ、としずかちゃんのように目を隠し二人を見る。その木刀は男の顔すれすれの地面に食い込んでいて、白兵くんはそれでも冷めた表情で"次は本気でお主の頭を叩き割る"と言っている。

ガタガタと震える男は謝罪を述べている様だ、あの様子じゃあトラウマで悪い事は出来ないだろう。

「うわあああ!ごめんなさいっ」

もう近づきませんと転けながら逃げて行く男をふん、と見ている白兵くんにありがと、と言うと手を貸し私の身体を起こしてくれた。


「大事ないでござるか?」

そう顔を覗き込んでくる白兵くんは私の肩を掴む。

「何故一人で帰ろうとしたのでござるか…会社で待っていれば拙者が迎えに行ったのでござるぞ」

「早く終わったから…白兵くんの所まで歩こうと思って……」


溜め息が聞こえる。そうだよね、白兵くんよりも大人なくせにこんな駄目駄目で呆れたよね。そう思い俯くと背中に腕が回され白兵くんの胸に顔が押し当てられる。
突然の事でびっくりだ。

「無茶をしないで頂きたい…。拙者が近くに居たから良かったものの、もしそうでなかったら如何なっていたか拙者はそれを考えると胸が痛い」


首元に白兵くんの唇が当たりくすぐったい。申し訳ない気持ちでいっぱいだが…胸がバクバク鳴って苦し過ぎて死にそうなんですけど、どうしよう。

顔が離され目の前にあの端正な顔。そして透き通った色の目と目が合わされる。


「もう、こんな無茶はしないと…拙者に誓って欲しい、花子殿」

「ははははいっ!」



死ぬほど怖かったけど、死ぬほど幸せ。
(comment*☆.)


[ prev / next ]
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -