■ 着せ替え人形。
「ごめんね、こんなに沢山」
私はあれから鳳凰さんに家を任せ友達の家に来ていた。もちろん、服を貰うためだ。
彼は服の仕事に就いているから服に困っていない、むしろ捨てるほどあって困っていると言う。
え?彼は男だよ。言葉が?ああ、彼はね…
「もぉやーだ、花子ったら言いなさいよね!彼氏、できたんでしょ?」
彼はおねぇだ。
「違うんだって、色々と事情がねえ…」
「なにその遠い目は」
「いずれ話すよ、とりあえずこれ!ありがとうね」
車に服たちを引きずり込む。こんなに必要かって?いや、もう誰がいつ来るかわかんないじゃないですか、誰がいつ来ても良いように服を揃えているのだ。
「あんた、何があったかわかんないけどね、ちゃんと報告しなさいよ?むしろ会わせてちょーだい!やぁねえ!取らないわよっ」
はいはいと相槌を打ちエンジンを掛ける、走り出そうとした時そうだと一言。
「またあたしが作った服、着てちょーだいね?昔からいつもあんたが第一号なんだから」
「もうプロなんだからモデルに着て貰いなさいよ、勿体無い」
じゃあねと手を振り走り出す。
そういえば高校一年の時に一番の友達になった湊(ミナト)の着せ替え人形になってよく作った服を着ていたなあ。
それで今はプロとしてブランドを立ちあげているのだから凄い。昔のミナトの服売ったら高いかな…
「もう、さみしいわねぇ…」
「ただいまー」
「なんだその大荷物は」
私が抱えている服の量にギョッとしている。そりゃ、そうだ。あんたのためだけだったら二.三着だが、これから大量に増えたらどうするんだ。
「服ですよ、あっ布団運ぶの手伝って下さい」
そう、布団も帰り掛けに買った。時間がない数日はソファーで寝てもらったのだが流石にそろそろソファーで寝てもらうのは忍びない。白兵くんだったらおいしい出来事満載だから絶対に自分から買いに行かないが、鳳凰さんは別だ。貞操の危機…いや、隣で寝ているのに逆に相手にされないのが堪える、この歳でそんな悲しい出来事に見舞われたくない。
あーあ、白兵くんだったら「は、破廉恥でござるぅぅう」とか言うのかな、可愛いな。なんか聞いたことあるセリフだけど。
階段を降り、車から布団を軽く持ち上げてうちの階まで表情ひとつ変えずに登って行った。ガチャリ…嫌な予感がする。
「あらあらあら、山田さん」
「……こ、こんばんわ」
ぎゃあああ!!大家さんだあああ!!!
や、やばい、気まず過ぎる…しかも、お話好きの大家さんだ、食いつかない筈がない。
「か、彼は只のお友達でして」と只の!を激しく強調して愛想笑いをする。鳳凰さんは眉を潜めて何か言いたげだったが何も言わないでと目線で伝える。
「お友達なの?」
鳳凰さんは何だこの老人は口を塞いでこの階から落としてやろうか、ああん?とでも言いたげな顔の歪み具合だ。まぁ、私が勝手にそう思っているだけなのだけど。
「いつも御世話になっております」
「え」「なんだ?」「いや」
なんだか素直にペコリと頭を下げるものだから驚いた。
「あらあらあら、良い男じゃない」
あはは、と笑いながら家のドアを開け押し込んだ。
「しっ失礼します!」
「お似合いね、うふふ」
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