「その、今度でよければ一緒に茶屋に行きませんか」
と思わずなまえさんを誘ったのがたぶん10月のつごもりごろ。 そしてそれが本当になって、私は、いま、
「佐分利さん!今日行くお茶屋さんて、どこにあるんですか?」 「あ、ああ、その町外れにあるんですけど」 「へぇ」
「楽しみです」と笑って私の横に並んで歩く彼女。 そのとても可愛らしい微笑みに、こちらも笑顔になる。 今日はペニシリンや医学館のことは忘れて、ただただ他愛の無い話をしながら、町外れを目指して二人並んで歩く。
思うのだけどなまえさんは少し変わっている。 見た目も雰囲気も周りの町娘とはまったく違うし、それに世間知らずというか、何というか、今だってこうして私の隣を何も気にせず歩く。普通、この年頃の女子というのは、男とこうして並んでは歩かないものなのだが。いや、横に歩かれるのが嫌なのではない。むしろ嬉しく感じる。
「ああ、ここです。ここ」 「けっこうひっそりしたところにあるんですねぇ」 「でも、ほんまにおいしいんですよ」
店の外においてある腰掛に二人並んで座ると、すぐに中から娘が出てきて、品書きを渡してくれる。私がそれをさらになまえさんに「今日は私のおごりです。何でもお好きなのどうぞ」と渡せば、彼女はぱあっと顔を明るくして「ほんとですか!」と嬉しそうに品書きを受け取った。が、しかしなまえさんはすぐに顔をしかめる。
「ど、どうかしはりましたか?」 「あ、いや、その」
いつものきっぱりと物を言う性格と正反対に、私から目をそらしてどもるなまえさん。なんや、私悪いことしたやろうか。
「なまえさん?もし私が何か気を悪くするような事したんなら言うてくれたら…」 「え!いや!違いますよ!そ、そうじゃなくてその…」 「じゃなくて?」 「わ、笑わないでくださいね?その、字が読めなくて、何が何だか」
そう困ったように微笑んで頭を掻くなまえさん。 私は「なんや」と気が抜けてふふっと笑ってしまった。
「あっ!笑わないでって言ったのに!」 「いや、すんません。そんな事かと思って」 「ええっ結構悩んでるんですけど!」 「ほんますみません。じゃあ私が読みます」 「お願いします」
なまえさんから品書きを受け取り、幾つかある甘味の最初から読み上げて行く。そして「何にします?」と聞けば「じゃあ葛切りで!」でと元気良く答えた。
店の娘を呼んで、葛切りと団子を頼んで、しばらく待つ。なまえさんはその間ずっとにこにこ笑いながら足をパタパタさせていた。
「お待たせしました。葛切りと団子です」 「ありがとうございます」 「おおきに」
娘からきな粉と黒蜜がかかった葛切りを受け取りそれをまじまじと見つめるなまえさん。そして「いただきます」と言って葛切りを恐る恐る、というふうに口へと運ぶ。
「−−っ!んまい!!すっごく!うまいです佐分利さん!!」 「それはよかった!」 「こんな美味しいものが食べれるなんて!!」 「ははは、それは大げさやないですか」 「いやいや大げさじゃないですよ!」
「ああ幸せ!」と言いながら葛切りを頬張るなまえさんを眺めながら自分も頼んだ団子を口に運ぶ。うまい。何だかいつもよりもうまく感じる気がする。こう思うのはなまえさんと一緒に食べているからだろうか。なんてそんなことを考えながらなまえさんの横顔を見つめていると、ふとこちらを向いたなまえさんと目があった。どきりと心の臓が跳ね上がる。
「どうかしました?」 「あ、いえ。なまえさん、美味しそうに食べてはるなあ、と思って」 「だってすっごくおいしいんですもん。あ、佐分利さんもこれ、一口どうですか?」 「え?」
スッと、あまりにも自然になまえさんが、葛切りを私の口元へと持ってくるものだから、思わず私はぱかっと口を開けた。
「むぐっ…」 「どうですか!!」 「お、おいしい、です」 「ねー!」
頭がくらりとして、目の前がちかちかする。それは口に残るきな粉と黒蜜の甘さのせいか、それともにっこり甘い微笑みを私に向けるなまえさんのせいか、はたまたどちらとものせいか……
あああゝ。あまい (私、今幸せと言うものを噛み締めてます……!) (それはいいことですね!)
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みずき様からのリクエストで「閃光少女の番外編で佐分利さんとお茶屋さんへ」でした! ハロウィンのときに、佐分利さんに「茶屋いきませんかー!」と言わせていたのでとってもいい感じに彼の望を叶えられましたww
みずき様、10万打企画に参加していただいて本当にありがとうございました! 是非これからもsmoooochをよろしくおねがいします(^ω^)
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