「レオン」
「ああ、キャリー」
「ねぇ、いつディナーに連れてってくれるの?」
「うーんそうだな、最近忙しいんだ」
「んもう、最近ずっとそればっかりじゃない」
「すまない。君とデートしたいのは山々なんだが」
「まあ、仕事なら仕方ないわよね」

今、私が片思いしている彼は『女遊びが趣味のプレイボーイ』という噂は常々聞いていた。が、だからと言って女とイチャついているところなんて見たくなかった。
でも、ジュースを買おうと自動販売機のある休憩室へきたら、そんな事をしていたので仕方ない。私は悪くない。むしろ被害者だ。

その彼、レオンに迫っている彼女はここでも軍を抜くほどの美女。さらさらのブロンドヘアー、ボンキュッボンのグラマラスな体。長くて細い綺麗な足を惜しげも無くさらし、綺麗にネイルされた指先を彼の鍛えられた胸板に這わす。そりゃあプレイボーイの『レオン様』じゃなくたって、男ならデートしたくなるだろう。
対して私はどうだろうか。ちっちゃいし、あんなに足長くないし、爪だってそのまんま。女としての魅力なし。なのでいくらプレイボーイと言えど『レオン様』に声なんてかけられた事ありません。あー、悲しくなってきた。ていうか、何で私はよりによってあんなタラシを好きになってしまったんだろう。
悲しいの通り越してイライラしてきた。デートの約束の話する前に仕事しろ仕事!

パキリとコーヒーのタブを開けて、煽るように一気飲みする私の横を、『レオン様』と満足するまで話したのか、キャリーが得意げな顔をして通って行った。高い鼻がさらにお高いですこと。

ふん、と空になった缶を投げてゴミ箱にシュートする。すこん、と綺麗に入って、ちょっとスッキリした気分になる。そしてさあ仕事に戻ろうかと思ったその時、ふふっと笑う声がして、その方を振り向けば、『プレイボーイレオン様』がいた。ああ、そうか、居たのか。

「なに?」
「ああ、すまない。何だか可笑しくて」
「デスクワークばっかりで、体を動かしたかったんでね」

う、うわぁあ、始めて仕事以外で喋ったというのに、何で私の返しはこんなにそっけないの。

「その、なまえ、だったよな」
「そうだけど」
「何だか、いつも仕事してる時と雰囲気が違って、なんというか、キュートだ」

え?なにいってんのこの人。いつも仕事してる時?私のこと、見てるの?い、いや違う。きっと『レオン様』の事だ、この職場の全ての女という女をマークしているに違いない。

「その、良ければ今度食事にでも行かないか?」
「え?」
「いい店があるんだ」
「いや、あの、その、きゃ、キャリーとの約束は?」
「ああ、キャリーは、いいんだ」
「は?」
「キャリーは別に気にしないさ」
「いや、あの、私、そういう女にだらしないのは嫌い、です」



言ってしまった。


「え、?」
「あ、ああ、ごめんなさい。私仕事に戻る、ね」

さようなら!と逃げる様に自分のデスクへと戻る。
ああ、やっちまった。「嫌い」だなんて、私は何様だよ!ああ、終わった。私の片思い終わった!!
さようなら、私の片思い。

なんて絶望していたのだけど、次の日からむしろレオンから積極的に話しかけてきて、私は心臓が止まるかと思った。
私の両隣のデスクの友人も「あんたあのレオン様に何したの!?」「あんたのとこに来るようになってあのレオン様が女遊びやめたのよ!」と興奮気味に聞いてくる。
いや、私にもわかりません。

ランチの時間、一人あの休憩室でコーヒーを片手にボーっとしていると「なまえ?」と呼ばれる。呼ばれたほうを振り向けばレオンがいて、「隣、いいか?」と聞かれたから、無言でコクリと頷いた。


「ランチ、もう食べたのか?」
「うん、さっきサンドイッチ食べた」
「そうか、せっかく一緒にランチでも、と思ったのに」


「残念だ」と言うレオンに、私は「そう」と返事する。
会話が途切れて、なんともいえない空気になった。
この空気をどうにかしたいけど、世間話をするような気分でもない。
私は「あのさ」とここ数日ずっと聞きたかった事を聞くことにした。


「なんで、レオンは私に話しかけるの?」
「?、どういうことだ?」
「私、貴方はずっとかわいい女の子が好きで、私なんかに興味ないと思ってたし、それに、私この前貴方に『嫌い』って言ったのに」
「そんな事…その、」

「なんと言えばいいのか」とレオンが困ったように言う

「君に、惹かれてたんだ」
「え?」
「ずっと前から」
「ええ?」
「信じてくれるか分からないが…」


君が此処のどんな女性よりも真面目に働いているのを見て興味を持った。
君は俺にねこなで声を使わないし、誰にでも優しく平等だった。
そんな君を、ますます知りたいと思った。
そして時々、友人とふざけて見せる笑顔を見て、完全に君に惹かれた。
しかし、ほかの女性になら簡単に声をかけれるのに、君だとどうしてもかけられなかった。
でも、あの休憩室で会ったとき、チャンスだと思ったんだ。

そう、レオンが言う。
私はわけが分からなかった。

「そして声をかけたら、君に『女性にだらしない男は嫌いだ』と言われて、あの時は息が詰まるかと思った」
「え、と、ちょっと意味が…」
「俺は、君が好きなんだ。君に嫌われたくなて、女遊びもやめた」
「え、っと」
「今すぐに返事を、なんていわない。だが、君にも、俺を見てもらいたい」


じっと目を見つめられて、何も言えなくなる。
レオンの青い瞳に吸い込まれそうだった。
なに、これ、私は夢でも見ているのだろうか。
唇が震えて、息が漏れる。

「わ、私…」
「なまえ…」
「私、だって、ずっと、好き、だった」


途切れ途切れに震える唇から言葉をつむぐ。
レオンの大きな瞳が、いっそう大きくなる。
ぐっと体が引き寄せられた。カランと缶が、足元に転がる音がする。
ああ、コーヒーが。


「これは、現実だよな?」
「それ、私も聞きたい」
「現実だと、信じる」
「そ、だね」



(ふれた彼の唇が、とってもとっても熱かった)




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アルト様へささげます!
レオンで切甘甘!

…切甘甘、になったでしょうか!
普段炭酸の抜けたジュースみたいなギャグばっか書いてるんで、なかなか新鮮でした!
リクエストありがとうございました!