「んー…、ほんっまあいつら痛いわぁ、俺の身体投げ飛ばしよって、ってあ、これ俺の身体ちゃうわ」


よいしょと立ち上がり、ぐっ、と伸びをする。
投げ飛ばされた時に打ったらしい肩が少々痛い。
足下に落ちていた刀を拾い、埃を払う。


「ふん、刀を取らんところを見ると、あいつら能無しやなぁ…。しかし、あの若造本間に役に立たんわ」

女一人護れないのにエージェントなんて笑える。
まぁ、それを彼女に言っても不可抗力だと言って怒るだろうが。

「ほんま、顔良え男は良えなぁー、まー俺もそこそこええ顔してると思うねんけど…、っとまぁ、こんなとこで独り言言ってる場合ちゃうなぁ!!!あっはっはっ!さて、若造でも探しにいこ!」



* * *




バンバンと銃声が小屋に響く。
ルイスと俺だけではとても対応できないほどの敵が押し寄せる。
それでも先ほど助け出したアシュリーだけは守らないといけないと思った。
それと同時に、村を出たときはぐれてしまったなまえの安否がとても気になった。

あのとき、崖の上から落ちてきた岩から無事に逃れたはいいものの、そのあとなまえとはぐれた場所に戻っても彼女は居なかった。
自分から何処かへ行ったのか、または連れ去られてしまったのかは分からない。
ただ、なまえが怪我をしてない事を祈るばかりだ。



「レオン!弾がきれちまった!」


ルイスのその言葉にハッとする。
そして、ルイスに自分の弾を分けようとしたとき、自分も既に弾が無いことに気づいた。

「チッ!すまないルイス、俺ももう弾が無いんだ!」
「どうすんだよ!まだ敵はうじゃうじゃ湧いてくるぜ!」
「このままじゃ本当にサンドウィッチのハムだな…」

そんな笑えないジョークを言った時、後ろからアハハと言う笑い声が聞こえた。
その声が聞こえたほうにとっさに銃をむける。しかし、そこにはガナードではなく、先ほどまで心配していた少女の姿があった。


「わ、銃なんか向けないで下さいよ!」
「な、なまえ!?」
「えへへ、はぐれてすみませんでしたレオンさん」

そうニコニコと笑う少女、隣でルイスがなにか聞きたそうにしていたが、それどころではなかった。

彼女の背後からガナードが襲い掛かろうとしているのだ。
しかし、弾が無いのでガナードを撃とうにも撃てない。
「危ない!」そう叫ぶことしか出来なかった。
しかし、彼女は顔色一つ変えずに持っていた刀でガナードをいつの間にか斬り倒していた。


ペロリと唇をひと舐めして、襲いかかってくるガナードを次々と斬り倒していく。
それは目にも止まらぬ速さ。しかし、なぜかスローモーションにも見えた。
小さな身体を軽々と動かし刀を振るう姿、宙をまう血渋きと光る銀の刀。それは素晴らしく綺麗だった。

ハッと我に帰った頃にはなまえは涼しい顔で刀を納めていた。
回りにいたガナード達は全て倒されていて、残りはもう諦め去って行ったようだった。

「すげぇ…」とルイスが呟く。
それはそうだ。なぜなら目の前の小さな少女がたった一人で二人でやっとだった量の敵を軽々と蹴散らしたのだから。

最初に俺を敵から守ってくれた時もそうだった。
流れるように、ためらいもなく、確実に切ってゆく。
その時の彼女の顔は冷静でいて、冷たく、しかし楽しそうにも見えた。今もそうだった。初めはそんな人なのかと思った。
しかし、話してみれば至って普通の女の子で、しかし怖がる素振りは見せず、気丈に俺に着いてきて、面白おかしくいろいろと話してくれる。
そうやって話した時間は短いものだが、なぜか今戦っていた彼女は彼女ではない気がして、思わず「本当になまえなのか?」とたずねた。

すると、今までニコニコ笑っていたなまえが一瞬スッと切れるような目になり、「やだなぁ…レオンさんったら」とニヤリと笑う。

ゾクリ。と背筋に寒気が走った。